離婚時の家の査定が必要なケースやおすすめの査定方法を解説!
「家の査定」とは、家を実際に売却するとした場合にいくらぐらいで売れるかを不動産の専門家が算出することを指します。そのため、家の売却の過程と考える人が大半でしょう。
しかし、離婚時には家の売却をするかしないかに関わらず、家が夫婦の共有財産の場合は査定が必要になります。なぜなら、財産分与(ざいさんぶんよ)の金額を決定するためです。家の査定をせずに財産分与を行った場合、あとから家の本当の価値が発覚するとトラブルになりかねません。
この記事では、離婚時に家の査定が必要な理由をはじめ、財産分与に関わる具体的な事例、査定方法、査定の事前準備まで詳しく解説します。これを読んで、スムーズかつ両者納得できる財産分与に役立ててください。
【監修】西崎 洋一 宅地建物取引士・管理業務主任者・不動産コンサルタント・不動産プロデューサー。不動産業界10年以上の専門家。物件調査、重説作成・説明などの実務経験が豊富。特に土地の売買、マンション管理に精通。大阪を中心に活動を行っている。
離婚時に家の査定が必要な理由
離婚時の財産分与は、夫婦共有の財産を平等に分けるのが基本です。そのためには、現金や家、車などの財産の総額がいくらなのかを知る必要があります。
そして、現金以外の財産は購入したときの価格ではなく、売却した場合の価格で考えることが一般的です。この売却想定の価格は、専門家に査定を依頼する以外に知る方法がありません。
建物自体は経年劣化によって価値を失っていきますが、土地の価格は景気や周辺の開発などによって上下します。これを考慮せずに購入当初の価格を基準に財産分与してしまうと、現在の価格と大きな差があったときに不平等が生じることになりかねません。
財産分与が決定してから再度分け直すのは原則不可であり、財産分与の取り消しや変更をするのは困難です。財産分与前に家の価値を調べ、税金まで考慮した上で財産分与しないとトラブルや裁判になりかねないため、専門家に家の査定を依頼しましょう。
離婚時の財産分与で家の査定が必要なケース
家が夫婦の共有財産である場合は、離婚時の財産分与の対象です。より具体的に3つのケースに分けて解説します。
一方が家に住み続け、相手に代償金を支払う場合
家に住み続ける側が家の査定額の半額を代償金として相手に渡すことで、財産分与とするケースです。その半額相当がいくらなのかを知るために査定を行います。
例えば、家の査定額が2,000万円だった場合、半額は1,000万円です。家を取得する側が、1,000万円分を相手へ渡せば半額ずつで平等になります。
※画像は諸経費等を含んでいません
ただし、家以外の財産がなく、家を取得する側が代償金を用意できない場合には、家を売却した代金から現金で分ける方法を選択することが一般的です。この方法は次の項目で詳しく解説します。
家を売却して財産分与をする場合
家を売却し、その売却代金から経費などを差し引いた利益分を財産分与するケースです。現金で分けるため不平等になりづらく、トラブルを回避しやすいのがこの方法の大きなメリットだと言えるでしょう。
しかし、家がすぐ売れるとは限らないことや、離婚後も家が売れて財産分与するまでは、ふたりで協力しなければならないというデメリットがあります。
なお、離婚前に売却して財産を分けると贈与とみなされ贈与税がかかるため、離婚後に売却を行うのが一般的です。
家の名義が夫婦の共有名義の場合
家の登記名義人が夫婦の共有名義(共同名義)である場合は、それぞれに家を所有する権利があります。そのため双方が同意しないと、夫婦の一方の名義に変更したり家を売却したりできません。売却に合意できるかを判断する材料として、家の査定額を知っておくことは大切です。
売っても利益がなく財産分与できない場合は、住み続ける側に名義を変更する、利益が大きい場合には売却して現金を財産分与するなど、しっかりと話し合いを行いスムーズに進めるようにしましょう。
離婚時に家の査定が必要ない(財産分与の対象外となる)ケース
離婚による財産分与を行うときに、家が対象にならないケースがあります。具体的には次の3つのケースです。
- 一方の相続によって取得した家の場合
- 一方が婚前に購入し、住宅ローンを完済していた場合
- オーバーローンの場合
それぞれを詳しく見ていきましょう。
一方の相続によって取得した家の場合
親からの相続や贈与などによって、夫婦の共有財産としてではなく、単独で取得した家は財産分与の対象になりません。
財産分与の対象となる共有財産は、夫婦の協力によって取得した財産のみであり、相続や贈与に夫婦の協力は関係がないとみなされるためです。
ただし、家自体が共有財産ではない場合でも、夫婦の共有財産の現金などを使ってリフォームや増改築をしていれば、家の維持に貢献したものとみなされて共有財産としての割合が認められることがあります。この割合は、夫婦間の協議や弁護士への相談によって決めることが一般的です。
婚前に住宅ローンを完済していた場合
夫婦の一方が婚前に購入した家で、なおかつ住宅ローンを完済していた場合は財産分与の対象外になります。相続の場合と同様に、婚姻期間中に夫婦の協力によって取得した財産が家の購入に影響していないためです。
ただし、婚前に購入したものの、住宅ローンの返済は婚姻期間中だったという場合には、婚前に支払った頭金分や家の取得に要した諸費用を考慮して、共有財産の割合を計算します。あくまでも割合であって、頭金や諸費用の全額が相手の財産分与の金額から差し引かれるわけではありません。
例えば、購入時4,000万円のうち、独身時代の貯金から夫が400万円を頭金として支払い、3,600万円の住宅ローンを共有財産で返済していたとします。このとき、購入価格に対する頭金の割合は10%です。現在の家の価値に頭金の割合を乗じて計算したものが財産分与の対象となる金額です。
家の査定額が2,000万円だった場合、頭金を支払った側の権利は10%を乗じた200万円分となります。財産分与にあたっては、2,000万円からこの200万円を差し引いた1,800万円が対象です。
そして、1,800万円を二分割した900万円が家の財産分与の金額となります。つまり、夫は900万円に頭金の権利である200万円をプラスした1,100万円が、妻は財産分与の900万円のみがそれぞれの取り分になるというわけです。
オーバーローンの場合
財産分与では借金をはじめとした「マイナスの財産」は対象外になります。住宅ローンも同様で、残債が不動産の市場価格(査定額)を上回っている場合は、オーバーローンとなり財産分与の対象にはなりません。
残債の返済については、夫婦それぞれの事情を考慮して協議で取り決め、公正証書を作成するのが一般的です。
離婚時の家の査定方法
査定とは、あくまでも「市場で売却できそうな価格」を専門家が算出したものです。実際の売却代金は、売却活動にかけられる時間や不動産会社によって上下します。そのため、精密な査定結果を得ることが重要です。
家の査定の依頼先
家の売却をするなら不動産会社に査定を依頼し、家を売却せず、どちらかが住み続ける場合には不動産鑑定士に鑑定を依頼することがおすすめです。
不動産会社
家の売買に強い不動産会社に査定を依頼すれば、売却に向けた仲介業務まで一連の流れの中で依頼しやすいというメリットがあります。複数社に査定を依頼して、より高く売ってくれそうな不動産会社を選びましょう。
不動産会社の査定は無料で行ってくれるため、不動産鑑定費用の捻出が難しい場合におすすめです。ただし、家の売却を視野に入れていない、あるいは財産分与まで長期間を要する場合は、不動産会社の査定額には注意が必要になります。
不動産会社が査定を行うのは「売ってもらうため」であることから、契約を獲得するために相場よりも高めの査定額を出したり、仲介手数料を見込んだ査定額を出したりすることがあるからです。そのため、参考にした査定額については離婚協議書に双方意義がない文言を入れておくことをおすすめします。
また、査定額は「時価」であるため、売却まで長期化する場合には、実際に売り出すタイミングで査定額が変わってしまい参考にならないときがあることも覚えておきましょう。
不動産鑑定士
家の売却をせずどちらかが住み続ける場合は、不動産鑑定士に査定を依頼するのがおすすめです。
不動産鑑定士は国家資格の保有者であり、精密な査定を行えるため、裁判や税務などの公的な目的の資料として使用できます。ただし、鑑定料はだいたい25万円くらいからが相場で、夫婦の共有財産から支出する必要があるため、この点は夫婦で話し合って決めましょう。
協議が難航しているときは、不動産鑑定士に依賴しましょう。
「売る側は高い方がいい、買い側は安いほうがいい。」と話し合いが平行線のまま解決しない場合に「不動産鑑定士が作成した不動産鑑定評価書」があれば問題が解決できるでしょう。
離婚で家の査定を依頼する際に必要な事前準備
家の査定を依頼する前にできる準備を解説します。
- 相場を調べておく
- 家の名義人を把握する
- 住宅ローンの契約と残債を確認する
- 各種書類の準備
- 家の掃除
それぞれを詳しく見ていきましょう。
相場を調べておく
家の売却に向けて不動産会社に査定を依頼するなら、その前に自分で相場を調べておくことが大切です。相場を把握しておけば、不動産会社が出した査定額が妥当な金額なのかがわかり、高すぎたり安すぎたりする場合には質問しやすくなります。
相場を調べる方法として、国土交通省指定の不動産流通機構が運営する「レインズ・マーケット・インフォメーション」や、国土交通省が提供している「土地総合情報システム」が挙げられます。どちらもインターネット上で調べられるのでおすすめです。
レインズのほか、不動産ジャパンを参考にするのもおすすめです。
国内の協会が協力しているサイトで、1つの企業などが利益を求めた内容ではないため、信頼性が高いと言えます。
家の名義人を把握する
家の名義人本人でなければ査定を依頼できない可能性があるため、名義人を把握しましょう。手元に家を購入したときに法務局から交付された登記識別情報があれば、家の名義人を確認できます。すぐに探し出せないような場合は、法務局で「登記事項証明書」を取得し、家の名義人を明らかにしておきましょう。
登記事項証明書の取得には手数料がかかります。法務局の窓口で交付を請求してその場で受け取る場合は600円、オンラインで請求して最寄りの登記所で受け取る場合には480円、オンラインで請求して郵送で受け取るなら500円です。
住宅ローンの契約と残債を確認する
まずは住宅ローンの契約書で名義人を確認します。家の名義人と住宅ローンの名義人が異なる場合があるからです。
また、住宅ローンの名義人変更は原則不可であるため、住宅ローンの名義人を住み続ける側へ変更することは基本的にできません。どうしても変更が必要な場合には、住宅ローンの借換えを検討しましょう。住宅ローンの連帯保証人として夫婦のどちらかが名義人になっている場合は、離婚しても連帯保証人のままです。連帯保証人から外れるためには、別の保証人を立てて、金融機関と交渉しましょう。
次に、査定額と住宅ローンの残債を比較して、査定額が残債よりも多いアンダーローンか、残債の方が多いオーバーローンかを判断します。
住宅ローンの残債は、金融機関から送付される残高証明書や返済予定表、金融機関のウェブサイトの個人ページなどで確認が可能です。オーバーローンの場合は、自己資金で残債を完済できれば売却可能ですが、完済できない場合は基本的に売却できません。
なお、返済遅滞が6ヵ月ほど続いていれば、オーバーローンでも家を売却して売却代金を返済に充当し、残債の返済を続けるという任意売却を選択できます。
各種書類の準備
査定時と売却時にあると役立つ書類を準備しましょう。具体的には、次のような書類です。
【査定時】
- 土地の実測図
- 境界線を確認できる資料
- 建物の設計図書
- 建築確認済証
- 修繕履歴の確認資料
- 建物や設備のパンフレット
【売却時】
- 身分証明書
- 登記済権利証または登記識別情報通知
- 固定資産税等納付通知書
- 印鑑証明書
- 抵当権抹消書類
- 住民票
これらの書類があると、家の詳細がわかるため、査定にかかる時間を短縮できたり、より精密な査定額を算出できたりします。
引越し作業中に書類の紛失が生じたり、双方が遠方に引っ越すことで手続きしづらくなったりする事態を避けるため、これらの準備は離婚に向けた別居などを行う前に確認しておくことがおすすめです。
不動産売却の必要書類は下記の記事で詳しく解説しています。
家の掃除
家が散らかっていても基本的には査定額に影響を与えませんが、極端に汚い部屋の場合は別です。心証を損なうレベルの破損や汚損がある場合には、ハウスクリーニングやリフォームなどまでは必要ありませんが、簡易的なメンテナンスや掃除をしておきましょう。
離婚時は家の査定で財産分与をスムーズに
離婚時の財産分与では、財産の総額を算出した上で半額ずつに分けることが基本であるため、家の価値がわからないと取り決めがスムーズに進みません。
売却して利益分を分与するなら不動産会社へ査定を依頼し、夫婦のどちらかが住み続けるなら不動産鑑定士に査定を依頼して、家の現在の価値がいくらなのかを知っておきましょう。また、今の家に住んでいるうちに、書類の準備や掃除などを済ませておくことをおすすめします。
望む事ではないかもしれませんが、離婚にとる財産分与にはそれぞれの利害関係が絡んできます。
円満に解決できればいいのですが、そうではない場合に備え、法律により解決方法が準備されています。 専門家への依頼は追加の費用が掛かりますが、問題解決のための必要経費ですので、早めに専門家に相談しましょう。
不動産会社の査定方法の種類
不動産会社に査定を依頼した場合、「簡易査定」と「訪問査定」いう2つの方法があります。両者の違いを把握して、適切に選びましょう。
簡易査定
立地、間取り、面積、築年数などの家の所有者が提供する情報と、不動産会社が確認できる過去の売買データ、地価公示価格などを照らし合わせて査定をします。
情報だけで査定するため、査定にかかる時間が短いことが大きなメリットです。また、査定結果は電話やメールで知らされるため、打ち合わせの日時を決めなくていいというメリットもあります。
簡易査定をする場合は、複数の不動産会社に無料で依頼できる一括査定サイトが便利です。複数社を比較することで、最も高く家を売ってくれそうな不動産会社がわかります。
ただし、簡易査定は建物の詳しい状態や立地の利便性に関わる詳細などが考慮されないため、正確な市場価値との差が生じることがある点がデメリットです。
簡易査定の段階で家の価値がほとんどないことが判明し、財産分与に考慮しないと判断したのであれば簡易査定まででも構いません。しかし、簡易査定によって算出される売却価格から代償金の取り決めをするには不向きです。
訪問査定
不動産会社の担当者が訪問して査定する方法です。複数業者の簡易査定を取り寄せてから、高く売ってくれそうな数社に訪問査定を依頼することをおすすめします。
訪問査定では隣地との境界、インフラ、近隣との関係、建物の状態など詳しくチェックして査定するため、売却時の価格と近しい市場価格を把握しやすい点が特徴です。
簡易査定と比べて精密なので、売却を検討する際はもちろんのこと、一方が住み続ける選択をする場合の代償金の算出にも役立ちます。
デメリットとしては、簡易査定と比べて時間がかかることと、不動産会社の訪問を受け入れる必要がある点です。離婚をするという事情を知られたくないときは、抵抗感があるかもしれません。
最もおすすめなのは、売却して財産分与する方法です。
しかしながら、さまざまな理由でそれが困難な方も多いでしょう。 法律では、そういった場合に備えて細かくルールが決められていますので、うまく話が進められない場合は、司法書士や弁護士などの専門家に相談するのが賢明です。