起立性調節障害の子どもに親ができること|改善には接し方や理解が大切

「起立性調節障害(OD:Orthostatic Dysregulation)」をご存知でしょうか。起立性調節障害は、病院で診断、治療を受けることができる病気のことで、朝起きられないなど起床時に症状が強く出て、登校が難しくなりがちになることが特徴です。不登校になっている子どもの3~4割が、起立性調節障害であるともいわれています。本記事では、起立性調節障害の主な症状、原因、診断の流れ、親ができること、改善のためのポイントなどについて解説します。

起立性調節障害(OD)とは

起立性調節障害(OD)とは、自律神経の不調による体の病気のことで、主に起立したときに症状が起こります。多くは、思春期に当たる小学校高学年から中学生までの時期に発症します。

起立性調節障害は、朝に症状が強く出ますが、午後から夜にかけては回復して元気に過ごせることが多いため、「仮病でつらそうにして、怠けているのでは」と誤解されがちです。しかし、小学生の5%程度、中学生の10%程度が起立性調整障害であるといわれています。起立性調節障害は珍しい病気ではなく、「本人がやる気を出せば治る」というものではありません。以下、起立性調節障害の主な症状と、なってしまう原因について解説します。

主な症状

起立性調節障害の主な症状は、以下の通りです。

<主な症状の例>

  • ・朝に起きられない
  • ・立ちくらみ
  • ・全身倦怠感
  • ・食欲不振
  • ・立っていると気分が悪くなる
  • ・失神発作
  • ・動機
  • ・頭痛
  • ・夜になかなか寝付けない
  • ・イライラ感・集中力低下
  • (OD起立性調節障害Support Group ウェブサイト)より

    起立性調節障害の症状は、立っているときや座っているときに起こり、横になると収まって楽になります。時間によっても症状が異なり、朝の起床時や午前中に症状が強く出て、午後や夜は調子が良くなることも多いです。起立性調節障害の症状の大半は、本人にしか分からない自覚症状です。そのため、検査しても、医学的な異常が見つからないといったことも珍しくありません。

    起立性調節障害が疑われる場合は、後述する「新起立試験」により、「サブタイプ」を判定します。主なサブタイプは4種類ありますが、近年は新しいサブタイプも報告されています。

    <起立性調節障害の主なサブタイプ>

    • 起立直後性低血圧

       起立直後に血圧が低下し、回復が遅く、時間がかかります。

    • 体位性頻脈症候群

       起立中や起立後に血圧は低下しませんが、心拍数が異常に増加します。

    • 神経調節性失神

       交感神経と副交感神経のバランスが悪くなって、血圧が低下したり、脈が遅くなったりして、脳の血流が途絶えて失神します。

    • 遷延性起立性低血圧

       起立後、しばらくしてから血圧が低下し、場合によっては失神します。

なってしまう原因

起立性調節障害の原因の全てについては、まだ明らかではありません。大きな原因は、自律神経の不調ですが、遺伝的体質やストレスなど、さまざまな要因が挙げられます。

症状の多くは、血圧が低くなり、血液が脳まで届きにくくなることによるものです。健常なときは、起立すると血液の流れや血圧が維持されるように、自律神経が働きます。直立して二足歩行する人間の体は、心臓が四肢と同じ位置にある四足歩行の動物と比べて、スムーズに血液循環をさせることが難しいといわれています。人間の心臓は、足の上部にあり、さらに心臓の上に頭がありますので、血液を心臓から足や頭まで循環させることは、通常においても大変なことであります。

起立性調節障害の主な発症時期である小学校高学年から中学生は、身長が大きく伸びる成長期に当たります。人間は、もともと血液循環を行うことが大変であり、成長期は血液をさらに強く押し上げなくてはなりません。さらに、この時期は、自律神経が乱れやすい思春期でもあるので、起立性調節障害の症状が起こると考えられています。

起立性調節障害の診断

起立性調節障害は、病院で治療できる病気です。治療を受けることができれば、軽症なら数カ月以内に改善することが多くあります。中等症以上の症状であっても9割は、16~17歳以降になると症状が改善するとされています。気になる症状があれば、受診するようにしましょう。

診断により不調の原因が分かることは、本人や家族にとっても安心感をもたらすでしょう。さらに、起立性調節障害の診断書を得ることができれば、学校関係者や友人など、周囲の人たちに子どもの症状を理解してもらいやすくなります。

「起立性調節障害かも?」と思う症状があれば、まずはその症状が他の病気によるものではないかどうかについて調べます。めまいなら、耳鼻科のように症状が該当する診療科、もしくはかかりつけの小児科を受診します。基本的な血液検査、内分泌学的検査、検尿、胸部レントゲン検査(あるいは心臓超音波検査)、心電図による検査などが行われます。その後の専門外来を受診するためには、紹介状を書いてもらうこともおすすめします。他の病気が見つからない場合は、起立性調節障害の専門外来を受診します。専門外来は、小児科・小児神経科、内科(神経内科・循環器内科)、耳鼻科などにあります。

また、以下のような起立性調節障害の専門外来を探すことのできるウェブサイトで、近くの医療機関を検索するのも良いでしょう。

医療機関検索

起立性調節障害の問診については、以下の項目で行われます。

  • 1.立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい
  • 2.立っていると気持ちが悪くなる、ひどくなると倒れる
  • 3.入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると、気持ち悪くなる
  • 4.少し動くと、動悸あるいは息切れがする
  • 5.朝はなかなか起きられず、午前中は調子が悪い
  • 6.顔色が青白い
  • 7.食欲不振
  • 8.臍疝痛(へその周囲の痛み)を時々訴える
  • 9.倦怠あるいは疲れやすい
  • 10.頭痛
  • 11.乗り物に酔いやすい

3つ以上当てはまる、あるいは2つでもその症状が強い場合は、起立性調節障害が疑われます。その場合、前述の起立性調節障害のサブタイプを調べるために、新起立試験を行います。新起立試験は、10分以上安静にした状態で横になって、血圧、脈拍を測定した後、起立して血圧低下からの回復時間や心拍数などを測定するものです。

起立性調節障害は親のせいなのか?

起立性調節障害の子どもを持つ親は、「子どもが起立性調節障害になってしまったのは、親である自分のせいではないか」と不安になることもあるでしょう。起立性調節障害は病気であり、主な原因は自律神経の不調ですから、親が自身を責める必要はありません。ただし、起立性調節障害の原因の一つとしては、ストレスも考えられています。子どもを無理に起こしたり、登校できないことを叱ったりなど、親の対応が子どもにストレスを与えると、症状の悪化や治療の効果が小さくなる恐れがあります。子どもが元気に過ごせないことで、親も不安と戸惑いを感じてしまうのは仕方のないことですが、注意して子どもに接するようにしましょう。

起立性調節障害の子どものために親ができること

病院での治療の他にも、親として起立性調節障害の改善のためにできることはあります。以下、「起立性調節障害を正しく理解する」「子どもの気持ちに寄り添ってサポートする」の2つのポイントから、親としてできることを解説します。

起立性調節障害を正しく理解する

最近では、起立性調節障害についての報道が増えてきたものの、まだ社会に広く知られていない病気であります。わが子が症状に苦しむようになって、初めて知ったという人もいるでしょう。

起立性調節障害は、検査しても数値が悪いなどといった瞭な結果が出にくく、本人にしか分からない自覚症状のつらさを周囲が把握するのが難しい病気です。前述の通り、起立性調節障害の原因の一つとして、ストレスが挙げられます。起き上がれなくて親に怒られることが多いなど、子どもが親の理解を得られずストレスを感じることは、起立性調節障害が悪化する恐れがあります。

実際の治療でも、まずは「起立性調節障害は体の病気である」と理解することから始まります。起立性調節障害に対して、子どもの一番身近な存在である親の理解があれば、症状の改善を後押しすることができるでしょう。

子どもの気持ちに寄り添って接する

起立性調節障害は、「怠けている」「サボっている」と誤解されやすいので、子どもは「つらい症状を親に言えない」と感じているかもしれません。子どもが親に苦しさやつらさを伝えやすくなるように、親は子どもへの接し方を工夫しましょう。まずは、起立性調節障害の子どもが抱える不安や心配を理解へと変え、子ども自身が「親は自分の気持ちを分かってくれている」と実感できるように、子どもの気持ちに寄り添って接するようにしましょう。

学校の教師や友人などの周囲の人たちが起立性調節障害について詳しく知らないため、子ども自身が苦しい思いをすることがあるかもしれません。周囲への働きかけをすべきかなど、子どもの希望を確認し、起立性調節障害について周囲からの理解を得られるようにサポートしましょう。

起立性調節障害の子どもを持つ親が悩みを共有したり、意見交換したりする「親の会」は、全国にあり、インターネット上でも開催されています。起立性調節障害を正しく理解するためにも、ぜひ参加してみることをおすすめします。

起立性調節障害の改善のためにできること

病院で行われる起立性調節障害の治療の基本は、病気について正しく理解し、生活習慣を改善することです。症状の重さによって、漢方薬を含めた薬物による治療が行われています。以下、起立性調節障害における主な生活習慣の改善方法である「起床・就寝時間を決めて生活リズムを正す」「塩分・水分を取る」「適度な運動で自律神経を整える」「ストレスの軽減で心身を健康にする」について、解説します。なお、起立性調節障害の改善に効果があると訴える接骨院、整体院、サプリメントなどもありますが、日本小児心身医学会では、「そのようなものに、科学的根拠(エビデンス)はない」としています。

起床・就寝時間を決めて生活リズムを正す

起立性調節障害になると、昼夜逆転するなど、生活リズムが乱れがちです。まずは、起床と就寝時間を一定の時間に決め、生活のリズムを整えることを目指します。朝の太陽の光には、体内時計をリセットする効果があるため、朝起きたら日の光を浴びるようにします。朝起きることが難しい場合は、無理に起きなくても構いませんが、起きる時間を固定できるように心掛けましょう。

眠りから目が覚めたら、急に立ち上がろうとしてはいけません。頭を下げ、うつむいた姿勢でゆっくりと立ち上がります。30秒以上かけて立ち上がり、最後に頭を上げるようにしてください。朝の起床時だけでなく、座った・寝転がった姿勢から立ち上がるときは、上記のことに注意し、ゆっくり立ち上がることが大切です。日中は、できるだけ横にならないことを心掛けましょう。

夜遅くなってもなかなか眠くならないときもあるかもしれませんが、布団に入る時間は、できるだけ遅くならないようにしましょう。テレビを見たり、ゲームやスマートフォンを使用したりすると、脳が刺激されて眠りにくくなります。夜になったら、テレビ、ゲーム、スマートフォンを見ることは避けることをおすすめします。

塩分・水分を取る

起立性調節障害の特徴の一つとして挙げられるのは、低血圧です。体内を循環する血液量を増やすと、低血圧の予防が期待できます。そのためにも、起立性調節障害の治療では、塩分と水分をしっかり摂取するように指導されます。体格にもよりますが、水分は1日当たり1.5~2リットル程度は取るようにしましょう。

塩分は、通常の食事よりも多めに取ります。ただし、塩分の過剰摂取は、体へのリスクもありますので、医師の指示に従ってください。起立性調節障害の治療における塩分の摂取量は、10~12グラムが目安であるといわれています。

適度な運動で自律神経を整える

適度な運動は、自律神経を整える効果があります。心拍数が極端に大きくならない程度の軽い運動を毎日行うと、起立性調節障害の大きな原因である自律神経の不調を防ぐことが期待できます。

そこで、無理なくできる運動を、体調の良い時間に毎日行うことを目指します。まずは、15~30分程度の散歩から始めると良いでしょう。「第二の心臓」ともいわれるふくらはぎの筋肉を鍛える運動であれば、血液の循環が良くなり、起立性調節障害の症状が改善する効果も期待できます。

起立性調節障害の子どもは、体を動かすことが面倒で億劫だと感じており、毎日の運動量が減少しがちです。その結果、筋力が低下し、さらに「運動したくない」といった悪循環になる恐れがあります。そうならないためにも、毎日少しずつ、無理のない程度の運動を続けることを目標にしましょう。水の中であれば、重力を感じずに動くことができるので、もともと泳げる子どもには、水泳もおすすめです。

ストレスの軽減で心身を健康にする

起立性調節障害は、ストレスが大きくなると症状が重くなり、逆にストレスが軽くなると症状も軽くなるといわれています。起立性調節障害と深く関係している自律神経も、ストレスの影響を大きく受けます。

ストレスを軽減し、心身を健康にすることで、起立性調節障害の症状の改善が期待できます。子どもがストレスを感じる原因を取り除き、ストレスを発散させることを心掛けましょう。

親子で会話する際には、子どもの話を聞くことに努めましょう。親が言いたいこと、伝えたいこともたくさんあるかもしれませんが、子どもがどんなストレスを感じているかを理解するためには、まず子どもの話を聞くことが大切です。

子どものストレスの原因を把握することができたら、ストレスを取り除くための解決方法を探りましょう。学校などの周囲の人たちに起立性調節障害への理解を求める、環境を変える、好きなことに打ち込むなどといった方法も考えられます。子どもが親と話すことや、適度な運動をすることもストレスの発散につながります。

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まとめ

起立性調節障害は、自律神経の不調が主な原因ですが、まだ分からない点の多い病気です。その症状のほとんどが自覚症状であるため、本人のつらさや苦しみが周囲から理解されにくいといった特徴があります。子どもが起立性調節障害になってしまったとしても、親が「自分のせいである」と責める必要はありません。親の対応が症状の改善につながることもありますので、まずは起立性調節障害への理解と、子どもの気持ちに寄り添うことに努めるようにしましょう。起立性調節障害は、病院で治療することができますので、気になる症状があれば、受診を検討してみてはいかがでしょうか。