リースバックのメリット・デメリット|後悔しないための基礎知識
リースバックとは自宅を売却後、売り手と賃貸契約を結んで住み続けられる仕組みです。
リースバックはまとまったお金を確保できるため、近年注目が集まっています。
背景には、価値観の多様化や社会情勢などが大きく関係しています。
本記事では、リースバックの仕組みやメリット・デメリットなどをわかりやすく解説します。
リースバックを利用する際の条件や注意点も併せて解説するので、資金調達する手段のひとつとして参考にしてください。
【監修】穂坂 潤平 宅地建物取引士。仲介営業13年(宅建は新卒の時に取得)、不動産仲介会社起業3年の経験を経てウェブクルーに入社。趣味は何でも遊びにすること。仕事では「喜ばれる仕事をして、自らも喜ぶこと」をモットーに日々ご提案しております!
リースバックとは
日本では1960年代にリースバックを取り扱う業者が多く設立されたものの、長期間普及しなかったのが現状です。
しかし、2010年代に入ってからは、リースバックへの注目度が高まりました。
それには、さまざまな事情が関係しています。
自宅を売却後も住み続けられるサービス
リースバックとは、不動産を活用した資金調達方法のひとつで、自宅を売却して現金化した後も、売り手に賃料を支払うことでそのまま自宅に住み続けられるサービスです。
自宅を売却(Sell)して、賃貸(Lease)で住むため、「セールアンドリースバック」と呼ばれることもあります。
売却後の名義は物件を買い取った相手になり、おもに不動産会社や不動産投資家などが挙げられます。
資金用途に制限がないので、売却して得たお金の使い道は自由です。
対象物件は戸建てだけでなく、マンションも含まれています。
利用者は増加傾向にある
国土交通省の「社会資本整備審議会住宅宅地分科会 中間とりまとめ案(たたき台)参考資料」によると、リースバックの取引件数は年々増加傾向にあることがわかっています。
年 | 買取 | 仲介 |
---|---|---|
2016年 | 256件 | 10件 |
2017年 | 340件 | 49件 |
2018年 | 745件 | 175件 |
2018年は2017年から100件以上、2016年から650件以上増加しました。
リースバックへのニーズが高まっている背景には、持ち家世代の高齢化や老後の資金を確保しようとしている人が増えていることなどが考えられます。
また、リースバックの利用者は高齢者だけではありません。
若い世代でも、収入減少によって住宅ローンを返済できない人が増えているのが現状です。
独立行政法人住宅金融支援機構の調査によると、住宅ローンの返済または遅延している人の割合は、決して少なくないことがわかっています。
年度 | 割合 |
---|---|
2015年 | 5.12% |
2016年 | 4.52% |
2017年 | 3.94% |
2018年 | 3.49% |
2019年 | 3.2% |
上記の調査結果からは、過去5年間で25人に1人程度の人が住宅ローンの返済に何らかの問題を抱えていることが浮き彫りになりました。
※出典元:独立行政法人住宅金融支援機構「リスク管理債権」リースバックへのニーズは価値観の多様化や社会情勢など、取り巻く環境が大きく影響しています。
リバースモーゲージや不動産担保ローンとの違い
不動産を活用した資金調達方法は、リースバックだけではありません。
リバースモーゲージや不動産担保ローンも資金調達方法として利用されていますが、それぞれ特徴に違いがあります。
リバースモーゲージ
リバースモーゲージは住み続けたままで、自宅を担保にして毎月利息分を、契約者の死亡後または契約終了後に借入額をまとめて支払う資金調達方法です。
借りたお金は契約者が死亡したとき、または期限がきたときに自宅を売却して返却する仕組みです。
リースバックとリバースモーゲージは、所有権の有無と資金用途の範囲に大きな違いがあります。
リバースモーゲージの場合、所有権は自宅に住み続けている限り譲渡されません。
また、資金用途は原則として生活資金に限られています。
ただし、金融機関によって対応がさまざまなので、事前に確認が必要です。
不動産担保ローン
不動産担保ローンは自宅を担保に一括でお金を借り、元本と利息を毎月返済していく資金調達方法です。
リースバックやリバースモーゲージと同様に、お金を受け取った後も自宅に住み続けることが可能です。
リースバックと不動産担保ローンは、抵当権の有無と資金用途の範囲に大きな違いがあります。
不動産担保ローンは自宅に抵当権が設定されているため、万が一返済できなくなった場合には自宅を売却されてしまうリスクがあります。
なお、自宅に住み続けている限り、所有権が移転することはありません。
資金用途に制限はないため、使い道は自由です。
リースバックを利用するメリット
リースバックを利用するとまとまったお金を受け取れるだけでなく、これまでと変わらず住み続けられる、維持費から解放されるなどのメリットがあります。
売却後も住み続けられる
通常は、自宅を売却すると転居しなければなりません。
しかし、リースバックは自宅を売却した後も、賃料を支払ってそのまま住み続けられます。
住み慣れた自宅を離れることなく、これまでと同様の生活を送れるのは大きなメリットだと言えるでしょう。
仕組み的には自宅を売却することに変わりありませんが、一般的な不動産売却のように売り出している情報は出回わらないのでリースバックの利用を近所に知られることもありません。
将来的に再購入も可能
通常は、一度不動産を売却すると自身の手元に戻すのは難しいでしょう。
リースバックを利用する際には自宅の売却が必要ですが、将来的に自宅を買い戻すことも可能です。
将来的に再購入を検討している場合は、「買い戻し特約」または「買い戻し予約」を結んでおく必要があります。
買い戻し特約とは売買契約から一定期間が経過した後、売却代金を支払うことで不動産を取り戻せるといった内容の契約です。
特約は、売買契約と同時に結ぶ必要があります。
買い戻しできる期間は最長10年で、売買契約時に取り決めていなければ5年が期限です。
買い戻しにかかる費用は、売却代金と諸費用を上乗せした金額の範囲内と定められています。
ただし、家賃を滞納した場合や期限までに資金を準備できない場合は、買い戻し特約を結んでいても再購入できません。
買い戻し予約は自宅の売却代金と同等の金額を支払うことで、売買契約を解除できる方法です。
買い戻し特約と異なり、売買契約との同時契約は不要です。
期限も定められておらず、いつでも買い戻しできます。
ただし、買い戻しの費用に制約がないため、売却時よりも高くなる傾向にあります。
まとまった資金が手に入る
リースバックを利用すると、自宅に住み続けながらも売却代金を受け取れるため、まとまった資金を手に入れることが可能です。
資金用途に制限はないため、老後の生活資金や事業資金などに有効活用できます。
また、一般的な不動産売却では、買い手が見つかるまでに数ヵ月~半年以上と時間がかかるケースも珍しくありません。
一方のリースバックは、一週間程度と比較的短期間で手続きが完了します。
ただし入金までの期間は業者ごとに異なるため、事前に確認しておきましょう。
維持費がかからない
毎年1月1日時点での不動産の所有者には、固定資産税や都市計画税の納税義務があります。
リースバックでは自宅の所有権を手放している状態のため納税が不要です。
火災保険料や修繕費などの維持費を支払う必要がないため、経済的な負担の軽減につながります。
また、分譲マンションの管理費や修繕積立金は所有者が支払うため、借り手が負担する必要はありません。
今後の維持費に関しては、所有権を持つ業者が支払うことになります。
ただし、物件種別に関わらず、契約内容によっては建物の修繕費を負担しなければならないケースもあります。
リースバックを利用するデメリット
リースバックにはメリットがある一方で、デメリットも存在します。
「こんなつもりではなかった」と後悔しないためにも、デメリットは十分に把握しておきましょう。
ここではリースバックで考えられる4つのリスク・デメリットを解説します。
家賃の支払いが必要
リースバックで自宅を売却した後は、売り手と賃貸借契約を結ぶことでそのまま住み続けることが可能です。
しかし、賃貸借契約を結ぶということは、毎月家賃が発生するのを意味します。
家賃の相場は、売却価格によって変動します。
年間の家賃は、売却価格の7~13%程度になるケースが多い傾向にあります。
例えば売却価格が1,000万円の場合、年間家賃と月家賃は次の通りです。
【年間家賃:売却価格の7%】
年間家賃 1,000万円×7%=70万円
月家賃 70万円÷12ヵ月=58,000円程度
【年間家賃:売却価格の13%】
年間家賃 1,000万円×13%=130万円
月家賃 130万円÷12ヵ月=10万8,000円程度
家賃が高い場合、自宅の売却でまとまった資金を得られても、家計の負担になりかねません。
そのため、リースバックを利用する際には家賃がどのくらいの金額になるかも確認しておく必要があります。
売却価格は市場価格よりも安い傾向にある
リースバックの場合、売却価格は市場価格の6~8割程度になるのが一般的。
おもな理由としては、次のとおりです。
- 借り手の家賃滞納リスク
- 将来的な再購入のための制約がある
- 再販のコストがかかる など
リースバックは買い取る側にもリスクが発生します。例えば賃貸の滞納や再購入への対応です。
売買契約時に買い戻し特約を結んだ場合、借り手が希望すれば再購入に応じる必要があります。
また、借り手が退去した後は、第三者に物件を再販するケースがほとんどです。
築浅物件でない限りは、建物の修繕や解体などを要するため、再販コストがかかります。
リースバックの売却価格が市場価格よりも安い傾向にあるのは、上記のような理由があるからです。
住み続けられる保証はない
リースバックの賃貸借契約には、定期賃貸契約と普通賃貸借契約の2種類があります。
多くの場合、契約期間が定められている定期賃貸契約で契約するのが一般的です。
定期賃貸契約は、基本的に2年以内です。
契約期間終了後には、貸し手と借り手の双方が合意すれば再契約できます。
ただし、業者側の都合によって再契約が合意に至らない可能性もあるため、自宅に住み続けられる保証はありません。
一方の普通賃貸借契約は正当な理由がない限り、貸し手は契約の更新を拒否できない仕組みです。
リースバックの利用後も長期間にわたって自宅に住み続けたい場合は、普通賃貸借契約に対応した業者を選びましょう。
リースバックの利用条件
リースバックは、希望すれば誰でも利用できるわけではありません。
いくつかの利用条件があるため、自身が該当するかをチェックしておきましょう。
家賃の支払い能力があること
リースバックで自宅を売却した後は売り手と賃貸借契約を結び、家賃を支払い続ける必要があります。
そのため、利用条件には安定した収入があることが含まれています。
ただし、住宅ローンを借入れるときのように、雇用形態や勤続年数を重要視されるわけではありません。
パート従業員や年金受給者でも安定した収入または貯蓄があれば、リースバックを利用できると判断されるケースもあります。
すべての名義人から同意を得られること
複数の名義人で所有する不動産は、誰かの一存で自由に売却できない仕組みになっています。
そのため、共有名義の自宅でリースバックを利用する際には、すべての名義人から同意を得ることが条件に含まれています。
例えば兄弟2人で所有している自宅を兄が売却する場合、弟の同意が必要です。
同意を得た名義人には、売買契約書にそれぞれ署名および捺印をしてもらいます。
ほかの名義人と疎遠になっていたり、直接連絡できなかったりなどの事情があるときには、業者に相談してみましょう。
住宅ローンを完済できること
不動産は、住宅ローンを完済しないと売却できません。
住宅ローンを借入れる際には抵当権が設定されており、売却する際には外す必要があります。
抵当権とは借り手が返済できなくなったときに備え、金融機関が住宅を担保にする権利のことです。
一度設定された抵当権は、住宅ローンを完済すれば外せます。
そのため、リースバックの利用条件には、住宅ローンを完済できることが含まれています。
ただし、残債が売却価格を上回っても、完済できる自己資金があれば問題ありません。
物件に瑕疵がないこと
リースバックの利用条件には、物件に瑕疵(かし)がないことが含まれています。
瑕疵とは、土地や建物に何らかの欠陥がある状態のことです。
例えば、心理的瑕疵や物理的瑕疵です。
心理的瑕疵は、過去に事故死や火災が発生した物件です。
物理的瑕疵は、建築基準法による耐震基準を満たしていない建物やシロアリ被害を受けた物件などが挙げられます。
瑕疵がある物件の価値は相場よりも低いため、業者が買い取った後に再販できない可能性があります。
業者が売却に応じてくれても、家賃を高く設定されるケースも珍しくありません。
また、売り手には告知義務があるため、瑕疵を隠して売却すると違反となり、契約解除や損害賠償を求められるリスクがあります。
リースバックを利用する際の注意点
リースバックを利用すると、自宅に住み続けることができます。
しかし、売却によって所有権が移転するため、資産としては手放す形になります。
後悔しないためにも、事前に注意点を確認しておくことが大切です。
契約内容をきちんと確認する
リースバックを利用する際には、売買契約書や賃貸借契約書の内容をきちんと読み込むようにしましょう。
確認が不十分なまま契約を結ぶと、業者との間でトラブルに発展するリスクがあります。
例えば将来的に再購入を検討している場合は、契約書に買い戻し可能な時期や買い戻し価格が明記されているかの確認が重要になります。
このほかのおもな確認項目は、次の通りです。
- 賃貸借契約の契約形態
- 修繕費の負担の有無
- 退去時の原状回復 など
賃貸借契約書は、契約形態を確認することも大切です。
契約形態には、普通借家契約と定期借家契約の2種類があります。
定期借家契約は契約期間に定めがあるため、満了を迎えると原則として更新できません。
普通賃貸借契約に対応した業者を選ぶ
リースバックの賃貸借契約には、定期賃貸契約と普通賃貸借契約の2種類があります。
定期賃貸契約には契約期間に定めがあり、貸し手と借り手が合意すれば更新することが可能です。
しかし、貸し手の都合によって契約が更新できないこともあります。
一方の普通賃貸借契約は正当な理由がない限り、貸し手は契約の更新を拒否できません。
そのため、自宅を売却後も長期間住み続けたい場合は、普通賃貸借契約を選びましょう。
ただし、どの賃貸借契約に対応しているかは業者によって異なるため、事前に確認が必要です。
信頼できる業者に依頼する
リースバックを利用する際には、不動産会社選びが重要なポイントになります。
しかし、すべての業者がリースバックに対応しているわけではありません。
国内では、リースバックに対応した業者はまだ少ないのが現状です。
普通賃貸借契約を結んでいれば、長期間にわたって自宅に住み続けられます。
契約途中で業者が倒産した場合、自宅を売却される可能性があります。
契約内容が新たな業者に引き継がれても、状況が変わるかもしれません。
利用後に後悔しないためにも実績が高く、信頼できる業者に依頼しましょう。
自宅に住み続けながら資金調達したいときにはリースバックがおすすめ
リースバックは、自宅を売却後も賃料を支払うことで自宅に住み続けられるサービスです。
近年は利用者が増加傾向にありますが、メリットばかりを見て判断すると後悔するおそれがあるため、利用する際にはデメリットも把握しておくことが大切です。
不動産を活用した資金調達方法にはリースバックのほかに、リバースモーゲージや不動産投資ローンもあります。
それぞれ特徴が異なるため、まとまった資金が必要になったときには、複数のサービスを比較して自分に適したものを選びましょう。