空き家の売却にかかる税金の種類~課税所得額をシミュレーションで解説~
空き家が売れた際には、税金の支払いを考慮しなくてはなりません。
空き家の売却額にはさまざまな課税がありますが、最も金額が大きいのは課税所得額および住民税です。加えて、登録免許税や、売買取引をするタイミングでかかる印紙税、消費税もかかります。
ここでは、課税所得額および住民税を中心に、空き家売却にかかる税とその計算方法を解説します。
- 空き家の売却にかかる税金・税率
- 空き家売却時の譲渡所得税の計算方法
- 税金がかかるタイミング(どんなときに課税されるのか)
空き家の売却でかかる税金とその計算方法
空き家の売却にかかる主な税金は、下表の4種類です。
税金の種類 | 詳細(税金がかかるとき) |
---|---|
譲渡所得税・住民税※ | 売却で利益を得たとき(翌年の確定申告要) |
登録所得税 | 売却にあたり、相続登記、抵当権抹消、登記上の住所の変更などを必要とするとき |
消費税 | 売却時、仲介手数料を支払うとき |
印紙税 | 売買契約書を作成するとき |
※令和19年12月31日までは、別に復興特別所得税(売却した年の課税基準となる所得額の2.1%)が徴収されます。
なかでも、売却対価に対する所得税・住民税は高額になります。
以下で、それぞれの詳細についてくわしくみていきましょう。
譲渡所得税(譲渡所得税・住民税・復興特別所得税)
譲渡所得税は、不動産売却による利益(譲渡所得)に対して課される税金です。この税金は、売却対価を得た翌年の2月中旬から3月中旬に確定申告し、同時に納付しなければなりません。
空き家の売却対価を確定申告したときは、譲渡所得税を含め、下記3種類の課税があります。合計すると、紹介した4種類の課税のうち最も金額が大きくなります。
- 譲渡所得税
- 住民税
- 復興特別所得税※
※令和19年12月31日までに売却し、対価を得た場合
譲渡所得税の計算では、課税される部分にあたる「譲渡所得」を算出する必要があります。譲渡所得は、売却で得た対価(=収入金額)から、購入から売却までの間に売主が負担した取得費および譲渡費用を控除することで計算されます。
さらに、売却する空き家が相続で取得したものだった場合などは、特例が適用される可能性があります。特例適用時には「特別控除額」も控除可能です。
課税対象となる譲渡所得の計算方法を式にすると、次のようになります。
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用 )- 特別控除額
詳しい計算方法の解説と、シミュレーションで譲渡所得税を出してみましょう。
【1】取得費と譲渡費用を算出する
譲渡所得の計算では、まずはじめに「取得費」と「譲渡費用」の算出をおこないます。
取得費とは、空き家を得るにあたってかかった費用を指します。一方、譲渡費用とは、空き家を売るためにかかった費用です。
取得費、譲渡費用には、それぞれ下記のような費用が含まれます。
- 空き家の購入代金
- 空き家の建築代金
- リフォーム費用
- 購入時の仲介手数料
- 外構などの設備の費用
- 売買契約書にかかった印紙税
- 登記に必要な登録免許税、不動産取得税
- そのほか、土地の取得に際して支払った測量費など
- 売却時における仲介手数料
- 売買契約書に添付する印紙税(売主負担分)
- 土地境界線を確定するための測量費
- 売るために行った建物の解体費用、その建物の損失額
- 地主の承諾のため支払った名義書換料(借地権の場合)
なお、取得費に含まれる「空き家の購入代金」のうち、建物部分については、減価償却後の価格となります。建築したときからの経過年数に応じて価値が下がっているため、下がった価値を「減価償却相当額」として金額から差し引く必要があるのです。
減価償却相当額は、もともとの購入代金の95%を限度として、以下の計算式で算定します。
減価償却相当額 = 建物購入代金 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
上記計算式の償却率については、建物の構造と用途で異なります。下の表で紹介するのは、居住用建物の償却率です。
建物の構造 | 償却率 |
木造 | 0.031 |
木骨モルタル | 0.034 |
軽量鉄骨造(骨格材3mm以下) | 0.036 |
軽量鉄骨造(骨格材3mm超4mm以下) | 0.025 |
鉄筋コンクリート造 | 0.015 |
【2】利益(譲渡所得)から控除の特例分を差し引く
相続した空き家を売却する際に利用できる控除の特例は以下の2つです。2つの特例を併用するのは不可とされるため、いずれか片方だけ適用するものとして計算します。
控除の特例 | 特別控除額の計算方法 |
---|---|
被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例 | 3,000万円 |
相続財産を譲渡した場合の取得費の特例 | 「支払った相続税額」×「相続税額の基とされた、相続を受けた空き家の相続税評価額」 |
控除の特例の適用を受けるには、いくつかの要件を満たしたうえで確定申告をする必要があります。適用可否などについては、国税庁のホームページや、最寄りの税務署、あるいは税理士に確認しましょう。
別の記事で「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」の要件を分かりやすく紹介しています。参考にしてみてください。
【3】譲渡所得に税率を乗ずる
譲渡所得に対する税率は、空き家の所有期間によって異なります。
取得後5年が経過していると長期譲渡所得扱いで税率が安くなり、取得後5年以内なら短期譲渡所得扱いで税率が高くなります。これら所有期間の判定は、相続などによって取得した年の1月1日時点で行います。
譲渡した年の1月1日時点での所有期間 | 税率※ |
---|---|
5年を超える土地・建物 (長期譲渡所得) |
20.315% (所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%) |
5年以下の土地・建物 (短期譲渡所得) |
39.63% (所得税・復興特別所得税30.63%、住民税9%) |
※令和19年12月31日までに売却する場合
譲渡所得税額をシミュレーションしてみよう
【1】から【3】で説明した内容を基に、空き家を売却したときの譲渡所得税額をシミュレーションしてみましょう。
今回のシミュレーションで用いる設例は以下のとおりです。
建物の種類 | 木造住宅(償却率:0.031) |
---|---|
所有期間 | 2年(税率:39.63%) |
売却価格 | 4,000万円 |
取得費(購入時の建物代金) | 3,000万円 |
譲渡費用(売却にかかった費用) | 100万円 |
まず行うのは、建物代金の減価償却の算出です。なお、今回は分かりやすさを重視し、建物代金以外の代金を考慮しません。
減価償却費 = 建物購入代金(3,000万円) × 0.9 × 償却率(0.031) × 築年数(2年) = 1,674,000円
算出した減価償却費を元に、取得費を求めます。
取得費 = 建物購入代金(3,000万円)- 減価償却費(167.4万円) = 2832.6万円
上記の計算によって、建物代金の取得費は2832.6万円となります。次に行うのは、売却の対価のうち課税対象となる「譲渡所得」の算定です。
利益(譲渡所得)=売却価格(4,000万円)-(取得費(2823.6万円)+売却にかかった費用(100万円))=10,764,000円
上記の計算によって、課税対象は10,764,000円と算出できました。最後に、税率を乗じて譲渡所得税と住民税の合計を計算します。
10,764,000円×39.63%=4,265,773円
譲渡所得税と住民税の合計は4,265,773円となりましたが、今回のケースでは3000万円特別控除を受けられるので譲渡所得はゼロとなり、税金を支払う必要はありません。
なお、控除の特例の要件のなかに「相続開始日から3年が経過する日が属する年の12月31日までに売ること」とあるため、相続してからの所有期間によって控除が使えるか否かは異なります。
3,000万円までの空き家特例を適用できるものとして考えた場合、譲渡所得税(+住民税)の早見表は次のとおりです。
■譲渡所得×税率(取得費や売却にかかった費用は含まれていません)
譲渡所得金額 (3,000万円の特定を適用した額) | 5年以下の所有(39.63%) | 5年超の所有(20.315%) |
---|---|---|
~3,000万円(0円) | 0円 | 0円 |
4,000万円(1,000万円) | 396万円 | 203万円 |
5,000万円(2,000万円) | 792万円 | 406万円 |
6,000万円(3,000万円) | 1,188万円 | 609万円 |
7,000万円(4,000万円) | 1,585万円 | 812万円 |
8,000万円(5,000万円) | 1,981万円 | 1,015万円 |
9,000万円(6,000万円) | 2,377万円 | 1,218万円 |
1億円(7,000万円) | 2,774万円 | 1,422万円 |
※「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」を適用
なお、ズバット不動産売却のシミュレーターを利用すれば、想定売却価格・住宅ローン残債・諸経費を入力するだけで譲渡所得税も表示されます。是非活用してみてください。
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登録免許税とは、不動産の権利やそのほかの情報に変更・訂正があった際、法務局で申請する「登記」にかかる税金です。
相続した空き家の売却では、相続人が売主となるため、不動産の名義変更(所有権移転登記)が必要です。この手続きのタイミングで登録免許税がかかります。他に登録免許税がかかる例としては、下の表にある「抵当権抹消登記」や「住所変更登記」が挙げられます。
登録免許税の対象 | 税額 |
---|---|
所有権移転登記 (相続の際の名義変更) | 0.4%(1,000円未満は切り捨て)※ |
抵当権抹消登記 (売却時にローン残高が残っている場合) | 不動産1個につき1,000円 (土地+建物なら1,000円×2=2,000円) |
住所変更登記 (登記上と現在の住所が一致していない場合) | 不動産1個につき1,000円 (土地+建物なら1,000円×2=2,000円) |
※100万円以下の土地は免税(令和7年3月31日まで)
抵当権とは、住宅ローンの滞納があった際に、債権者である銀行などがその物件を競売にかける権利のことです。空き家の売却では、抵当権実行で買主に損させないよう、「抵当権抹消登記」が必要です。
なお、住宅ローン返済中に所有者が亡くなったケースでは、団体信用生命保険によって完済されることが一般的です。その際、抵当権抹消登記も同時に行われることが多いでしょう。
「住所変更登記」は、所有者が引越したことで空き家となっているケースで必要です。売却前提かどうかに関わらず、所有者の住所が変わった場合には、一定期間内に登記申請することが義務付けられています。
仲介手数料・司法書士報酬にかかる消費税
売却を依頼する不動産会社に払う仲介手数料や、登記申請を依頼するときの司法書士報酬には、それぞれ消費税がかかります。消費税の課税対象となる費用の考え方は下の表のとおりです。
消費税が発生するもの(一例) | 税金の対象となる費用 |
---|---|
不動産会社に依頼するときの仲介手数料 | 建物を売却するときの仲介手数料 ※居住用・事業用は問わない ※土地の売買は非課税 |
登記申請を依頼するときの司法書士報酬 (所有権移転登記・抵当権抹消登記など) | 書類作成などの代行費用 ※実費を除く役務提供部分 |
不動産会社に対する消費税は、依頼によって売買が成立し、仲介手数料を支払う場面で発生します。売却を依頼するときにもらえる「媒介契約書」に記載があるため、確認しておきましょう。
司法書士に対する消費税は、書類作成そのほかの申請手続きなど、役務提供に関する報酬について発生します。
また、登録免許税、印紙代、市区町村役場に収める交付手数料などには、消費税はかかりません。
参考までに、仲介手数料にかかる消費税の税率には特殊な決まりがあります。宅建業法では、課税事業者(年間売上高1,000万円以上)は報酬の10%、免税事業者(上記以外)は報酬の4%とされています。
印紙税
印紙税とは、印紙税法で指定された「課税文書」についてかかる税金です。空き家の売却では、売買が成立したときの契約書が該当します。
なお、令和6年3月31日までに作成される書類には、軽減税率が適用されます。
契約書の記載金額 (売却価格) | 印紙税額(本則税率) ※令和6年4月1日以降に作成される書類 | 印紙税額(軽減税率) ※令和6年3月31日までに作成される書類 |
---|---|---|
50万円以下 | 400円 | 200円 |
50万円超え100万円以下 | 1,000円 | 500円 |
100万円超え500万円以下 | 2,000円 | 1,000円 |
500万円超え1,000万円以下 | 1万円 | 5,000円 |
1,000万円超え5,000万円以下 | 2万円 | 1万円 |
5,000万円超え1億円以下 | 6万円 | 3万円 |
1億円超え5億円以下 | 10万円 | 6万円 |
5億円超え10億円以下 | 20万円 | 16万円 |
10億円超え50億円以下 | 40万円 | 32万円 |
50億円超え | 60万円 | 48万円 |
空き家の売却にも税金はかかる【まとめ】
空き家の売却では、売却対価に対して譲渡所得税および住民税がかかります。売る前に登記申請が必要なケースでは登録免許税、売買取引を行うタイミングでは消費税や印紙税がかかります。
最も大きくなる譲渡所得税および住民税では、過大に税を納めてしまうことのないよう注意してください 。取得費と譲渡費用を適切に計算し、特例控除が使えるかどうかチェックしましょう。
不動産会社では、宅建士や宅建業免許を取る過程で、不動産の税の知識もしっかりと習得しています。課税額が心配なときや、そのほかに不明点があるときは、売却を依頼するタイミングで気軽に質問してみましょう。
譲渡所得額および住民税のシミュレーションで用いた例は、かなり好条件で売れた場合を想定しています。空き家の取引事例の多くは1,000万円以下で取引されており、測量そのほかの調査で譲渡費用が割高になるのが一般的です。さらに空き家特例を適用することで、給与・事業所得を含む課税額にほとんど影響がないケースは、珍しくありません。