親の家を売る方法|売却したらどんな税金がかかる?控除特例についても紹介!
親が老人ホームに入所する、亡くなったなどの理由で親名義の家を売りたいと考えている人もいると思います。親名義の家の売却は、自分名義の家の売却とは異なる部分があるため、売却の流れや注意点などを事前に押さえた上で売却に臨むことが大切です。
この記事では、親の家を売却するときの流れや注意点、発生する税金や利用できる特例などを紹介します。
【監修】穂坂 潤平 宅地建物取引士。仲介営業13年(宅建は新卒の時に取得)、不動産仲介会社起業3年の経験を経てウェブクルーに入社。趣味は何でも遊びにすること。仕事では「喜ばれる仕事をして、自らも喜ぶこと」をモットーに日々ご提案しております!
親の家を売る方法
親が施設に入所した、亡くなった場合は、親名義の家が空き家になる可能性があります。空き家のまま放置していても、経年劣化で資産価値が減少する、固定資産税や都市計画税などの支出が生じるため、売却する人が多いです。
しかし、親名義の家の売却は、自分名義の家を売るのとは異なる点があるので注意が必要です。
親の家を売る方法として、以下の3つが挙げられます。
- 名義変更を行なって売却する
- 親の代理人として売却する
- 成年後見人制度で売却する
それぞれの方法について詳しく見ていきましょう。
名義変更を行なって売却する
不動産を売却する際は、原則として名義人本人が契約しなくてはなりません。親が亡くなった場合、自動的に名義人が相続人に切り替わると思っている人もいるかもしれませんが、名義変更の手続きをするまでは名義が親のままです。
親名義の家を勝手に売却することはできないため、名義変更を行なってから売却することになります。
名義変更の流れは以下の通りです。
- 1.遺言書などの確認
- 2.相続人の確認
- 3.その他の相続財産を確認
- 4.相続放棄もしくは承認か決定する
- 5.遺産分割協議
- 6.相続登記
遺言書などの確認
親が亡くなって遺産分割をすることになった場合、まずは遺言書などを確認する必要があります。その理由は、被相続人(亡くなった人)が遺言書を作成していた場合には、遺産分割は被相続人の意思を尊重して、原則遺言書の内容に従わなくてはならないためです。
通常は、民法に定められている相続人(法定相続人)が遺産を相続しますが、遺言書に特定の人物を指定している可能性があります。どの遺産をどの相続人に相続させるのか特定している場合もあるため、作成されていた場合は内容をしっかりと確認しましょう。
相続人の確認
遺言書が作成されていなかった場合には、相続人全員で遺産分割協議という遺産分割についての話し合いをしなくてはなりません。遺産分割協議を成立させるには、相続人全員の合意が必須であるため、相続人が誰なのかを確定させる必要があります。
戸籍謄本を取得して血縁関係を調べれば、法律上の相続人が誰なのかを特定できます。役所で被相続人の戸籍謄本を取得して相続人を確認しましょう。
その他の相続財産を確認
相続対象は親名義の家だけではありません。金融資産(株、外貨、預金など)のほか実物資産(不動産、貴金属、骨とう品など)も相続財産に含まれます。
また、相続財産にはプラスの財産だけでなく借金といったマイナスの財産(負債)も含むので注意してください。合計額がマイナスのケースでは、相続人が負債を返済していかなくてはならないため、どのような財産があるのかだけでなく、プラスとマイナスのどちらが上回っているのかも確認しましょう。
相続放棄もしくは承認か決定する
相続が発生した場合は、相続には相続の開始を知ってから3か月以内に「単純承認・相続放棄・限定承認」の中から相続方法を選択しなくてはなりません。
単純承認とは、プラスの財産だけでなくマイナスの財産も含めた全ての財産を相続することです。反対に、相続放棄とは、全ての財産を放棄することです。負債が多いことが明確な場合は、相続放棄を選択します。
限定承認とは、プラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産を引き継ぐという相続方法です。プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いか明確でない場合に選択します。
遺産分割協議
遺言書が作成されていない場合、民法に定められている遺産分割の割合(法定相続分)に従って遺産分割します。しかし、相続人全員で合意すれば遺言書の内容や法定相続分とは異なる遺産分割をすることも可能です。
遺産分割協議とは、相続人全員で遺産分割について話し合うことです。誰がどの遺産をどのくらいの割合で相続するか決定します。
遺産分割協議を成立させるためには、相続人全員が参加して協議する、協議結果を書類に残さなくてはならない点に注意してください。
相続登記
遺産分割の方法が決まった後は相続登記(名義変更手続き)に移行します。名義変更手続きは法務局に申請書を提出すれば完了です。
専用の用紙はないため、記載例を見ながら自分で申請書を作成します。相続登記では以下のような書類が必要なので忘れないように事前に準備しておきましょう。
- 登記申請書
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 住民票の除票の写しまたは戸籍の附表の除票
- 法定相続人全員の戸籍謄本
- 遺産分割協議書
- 遺言書
- 法定相続人全員の印鑑証明書
親の代理人として売却する
親が高齢を理由に自身で家の売買契約を締結することが困難であるというケースも珍しくありません。原則売買契約の締結は名義人がするものですが、そのようなケースでは名義人の代理人として代わりに売却することが認められています。
代理人として家を売る際の手続きの流れは以下の通りです。
- 1.委任状を作成する
- 2.委任状を不動産会社に提出する
委任状を作成する
委任状には決められた様式がありません。そのため、必要事項を踏まえた上で、自分自身で作成する必要があります。委任状に記載すべき内容として、以下のような項目が挙げられます。
- 登記簿謄本に記載されている物件情報
- 売却条件・ルール
- 委任状の有効期限
- 委任の範囲
- 所有者本人と代理人の氏名・捺印
- 所有者と代理人の氏名・捺印
必要事項が記載されていなかった場合、委任が無効になる可能性があります。不安な人は不動産会社がフォーマットを持っている場合があるので事前に確認してみましょう。
委任状を不動産会社に提出する
作成した委任状を不動産会社に提出します。委任状が受理されれば、名義人の代理人として不動産を売却することが可能になります。
委任状を提出する際には、以下のようなものも必要です。
- 所有者の印鑑証明書
- 所有者の本人確認書類
- 所有者の実印
- 所有者の住民票
- 代理人の本人確認書類
- 代理人の実印
不動産会社によって必要な持ち物は異なる可能性があります。持ち物に不備がないようにするためにも、不動産会社に問い合わせることをおすすめします。
成年後見人制度で売却する
成年後見人制度とは、所有者が知的障害や精神障害、認知障害などで十分な判断能力を有しておらず、騙されたり本人の意思に反して売却したりしないように法的に守るための制度です。
特に高齢の親の場合、認知症によって十分な判断能力を有していないケースも多く、そのようなケースでは成年後見人制度を利用します。
成年後見人制度には、判断力が低下した人の法的権利を守る法定後見と判断力が十分あるうちに後見契約を結ぶ任意後見の2種類あります。
成年後見人制度を利用する際の流れは以下の通りです。
- 1.書類を準備+面接予約
- 2.書類を提出
- 3.面接
- 4.審査+審判
- 5.後見登記+職務説明会
書類を準備+面接予約
成年後見人制度を利用する際は、以下のような書類が必要です。
- 1.後見開始申立書
- 2.申立事情説明書
- 3.親族関係図
- 4.財産目録
- 5.収支状況報告書
- 6.後見人等候補者事情説明書
- 7.親族の同意書
- 8.本人確認書類
- 9.戸籍謄本
- 10.住民票
1~7までの書類は家庭裁判所の窓口や家庭裁判所のHPで取得できます。他にも診断書が必要になるので事前に確認しておきましょう。
面接は家庭裁判所で実施されるため、家庭裁判所に面接予約をします。
書類を提出
作成しておいた申立書類を家庭裁判所に提出します。窓口に直接提出または郵送のいずれかを選択します。提出した書類は返却されません。記載内容を忘れてしまった場合、面接日に受け答えがスムーズに進まない可能性があります。
面接日に受け答えをスムーズに進めるためにも、事前に申立書類の一式をコピーしておきましょう。
面接
審査や審判をスムーズに進めるために、申立後に申立人や後見人候補者に事情を伺うための面接を実施しています。
面接は家庭裁判所内で実施されており、申立に至った事情や本人の生活状況、判断能力、財産状況、他の親族の意向、候補者の適格性などを判断します。面接時間は30分から1時間程度です。
審査+審判
審査(審理)では、裁判官が申立書類に不備がないかどうか、本人の状況や事情などを踏まえながら制度の利用が必要か(後見人として相応しいか)などを判断します。精神鑑定や親族の調査なども実施されます。
審判は裁判官が調査結果や提出資料などに基づいて導き出した決定です。審判の結果次第では、後見人が複数人選ばれることもあります。成年後見人に選ばれた人に審判所が届きますが、不服がある場合は届いてから2週間以内に不服申立をしましょう。
後見人登録+職務説明会
審判が確定した後は、家庭裁判所から法務局に登記の依頼がなされ、後見人の氏名や権限などが登録されます。
家庭裁判所から送付されてくる審判所には、後見人に選任された人を対象に実施されている職務説明に関する案内が同封されています。
この説明会には原則参加が必須となるので覚えておきましょう。
親の家を売る場合にかかる税金
親の家を売る場合は、自分の家を売る場合と同様に税金がかかります。親の家を売る場合にかかる主な税金は以下の3つです。
- 譲渡所得税
- 印紙税
- 相続登記の登録免許税
それぞれの税金について詳しく見ていきましょう。
譲渡所得税
譲渡所得税とは、家を売って譲渡益が発生した場合にかかる税金です。譲渡所得税の計算方法は以下の通りです。
譲渡所得税 = 課税譲渡所得(譲渡所得-特別控除) × 税率
譲渡所得は、購入価格から売却価格を引くだけではなく、売買時にかかった仲介手数料や売買契約書に添付された印紙代などの諸費用、経年劣化による減価償却なども考慮します。
譲渡所得税は確定申告時に納めます。売却時における不動産の所有期間が5年以下だと30.69%、5年超だと20.315%と適用される税率が2倍近く異なるため、売るタイミングに注意が必要です。
印紙税
印紙税とは、経済取引に伴って、契約書や領収書などを作成した場合に、印紙税法に基づいてその文書に課税される税金です。印紙税は売買契約を締結する際に納めます。
印紙税の金額は不動産の売却価格によって以下のように異なります。
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
---|---|---|
10万円超50万円以下 | 400円 | 200円 |
50万円超100万円以下 | 1,000円 | 500円 |
100万円超500万円以下 | 2,000円 | 1,000円 |
500万円超1,000万円以下 | 1万円 | 5,000円 |
1,000万円超5,000万円以下 | 2万円 | 1万円 |
5,000万円超1億円以下 | 6万円 | 3万円 |
1億円超5億円以下 | 10万円 | 6万円 |
5億円超10億円以下 | 20万円 | 16万円 |
10億円超50億円以下 | 40万円 | 32万円 |
50億円超 | 60万円 | 48万円 |
平成26年4月1日から令和6年3月31日までの間に作成されるものは軽減措置の対象となります。
出典元:国税庁「不動産売買契約書の印紙税の軽減措置」相続登記の登録免許税
相続登記の登録免許税とは、親名義の不動産の名義を変更する所有権移転登記にかかる税金です。所有権移転登記をする際に法務局で納めます。
登録免許税の税額は固定資産税評価額の0.4%となっています。登記手続きには時間と手間がかかるため、登記の専門家である司法書士に依頼するケースも多いですが、依頼時には別途数万円の費用がかかるので注意してください。
親の家を売る場合の税金控除特例
譲渡所得税は親の家を売る際にかかる税金の中で最も金額が大きく、納めるタイミングも他の税金のようにすぐではなく、確定申告時と時間差があります。そのため、売却利益を使い込んでしまうことがないように注意が必要です。
譲渡所得税は控除や特例を利用することで負担を軽減できますが、自動的に適用されるわけではありません。申告が必要だということを覚えておいてください。
利用できる主な控除は以下の2つです。
- マイホーム売却時の3000万円特別控除
- 相続空き家売却時の3000万円特別控除
上記の控除や特例を利用すると、3000万円以内の売却利益にかかる譲渡所得税が免除されます。それぞれについて詳しく説明していきます。
マイホーム売却時の3000万円特別控除
マイホーム売却時の3000万円特別控除とは、マイホームを売却する際に利用できる控除です。以下のような物件を売る際に利用できます。
- 控除を利用するために入居した家屋ではない
- 仮住まいのように一時的な理由で入居した家屋ではない
- 別荘のように娯楽や保養を目的として所有している家屋ではない
控除が適用されるための主な要件は以下の通りです。
- 住まなくなった日の3年後の12月31日までに売却する
- 前年、前々年にこの特例やマイホームの譲渡損失についての譲渡通算および繰越控除の特例を受けていない
- 前年、前々年にマイホーム買換えやマイホーム交換の特例を受けていない
- 売った家屋や敷地が収容等の場合の特例控除のような他の特例を受けていない
- 災害による滅失の場合は敷地に住まなくなってから3年後の12月31日までに売却する
- 親子や夫婦などの特別な関係がある人に売却していない
相続空き家売却時の3000万円特別控除
相続空き家売却時の3000万円特別控除とは、相続によって取得する不動産を売却する際に利用できる控除です。以下のような物件を売る際に利用できます。
- 昭和56年5月31日以前に建設された建物
- 区分所有建物登記がされていない建物
- 相続開始前に被相続人以外が居住していない建物
控除が適用されるための主な要件は以下の通りです。
- 相続または遺贈によって物件を取得した人が売主である
- 相続から譲渡のときまで事業や貸付、居住の用に使用していない
- 譲渡のときに一定の耐震基準を満たしている
- 解体して売却する場合、相続から解体、売却までに事業や貸付、居住の用に使用していない
- 解体から譲渡まで建物や構築物の敷地に使用していない
- 相続開始から3年後の12月31日までに売却する
- 売却代金が1億円以下
- 相続財産を譲渡した場合の取得費特例のような他の特例や控除を使用していない
- 同じ人から相続または遺贈された別の家や敷地にこの特例を使用していない
- 親子や夫婦などの特別な関係がある人に売却していない
まとめ
親が老人ホームに入所した、亡くなったなどの理由で親名義の家を売却したいと考えている人もいると思いますが、家の名義が自分ではない以上、勝手に売却することはできません。
相続登記によって名義を変更する、代理人として売却するといったように、適切な方法を選択して売却しないとトラブルに発展する恐れがあるので注意してください。
親の家を売ることについて悩んでいる人は、トラブルを回避しながら速やかに売るためにも、不動産会社といった専門家に相談しましょう。