「専任媒介契約書」とは?契約前に知っておきたい確認・注意点を解説
不動産を売却する際、不動産会社と締結する契約を「媒介契約」といい、媒介契約には媒介契約書の作成が必要です。媒介契約のひとつである「専任媒介契約」の締結の際にも「専任媒介契約書」の作成は欠かせません。
ここでは基礎知識として、専任媒介契約の特徴とほかの媒介契約との違いをはじめ、専任媒介契約書の作成に必要な準備物や記載内容、さらに専任媒介契約書の確認事項から注意点までわかりやすく解説します。
【監修】西崎 洋一 宅地建物取引士・管理業務主任者・不動産コンサルタント・不動産プロデューサー。不動産業界10年以上の専門家。物件調査、重説作成・説明などの実務経験が豊富。特に土地の売買、マンション管理に精通。大阪を中心に活動を行っている。
専任媒介契約の基礎知識
まず、専任媒介契約とはどのような契約なのか、特徴やそのほかの媒介契約との違いについて説明します。
専任媒介契約の特徴
「専任媒介契約」とは、不動産会社の契約が1社のみの媒介契約を指します。ただし、同時に売主が自分で買主を探して直接取引きすることも可能です。その際、契約している不動産会社の仲介は必要ありません。
また、不動産会社はレインズの登録義務(契約から7日以内)、売主への業務報告義務(14日に1回以上)があります。
不動産会社が全国の不動産物件や取引情報を共有できる「不動産流通機構運営のネットワークシステム」。レインズに登録すると買主が見つかりやすく、早期の取引成立が期待できます。
専任媒介契約の契約期間は最長3ヵ月間です。不動産会社の積極的な売買活動が期待されることから、早期の取引きを希望する人に適しています。
なお、不動産会社に仲介を依頼するには、媒介契約の締結が法的(宅地建物取引業第34条の2)に義務付けられており、契約の際には「専任媒介契約書」の作成が必須となります。
専任媒介契約書は、取引きの全体像や業務の範囲を書面にしたもので、仲介業務におけるトラブルを回避する働きもあります。
そのほかの媒介契約との違い
売却契約には「専属専任媒介契約」「専任媒介契約」「一般媒介契約」の3種類があります。
専属専任媒介契約は、専任媒介契約と同様、不動産会社の同時契約は1社のみしかできません。さらに、自分で不動産の買主を見つけた場合でも、不動産会社の仲介が必要です。
また、不動産会社のレインズの登録義務は契約から5日以内、業務報告義務は7日に1回以上となっています。
一般媒介契約は、複数の不動産会社と契約できるうえ、自分で買主を見つけた場合は専任媒介契約と同様に不動産会社の仲介なしで直接取引が可能です。ただし、不動産会社にはレインズの登録義務や業務報告義務の規定はありません。
専任媒介契約書の記載内容
次に、不動産売却の依頼主が専任媒介契約書に記載する情報と、不動産会社側が記載する内容を説明します。
依頼主が専任媒介契約書に記載する内容
依頼主が専任媒介契約書に記載する情報には、おもに次のような項目が挙げられます。
【依頼主が専任媒介契約書に記載する内容】
- 不動産の所有者名・住所
- 登記名義人の氏名・住所
- 当該不動産の所在地
- 媒介価格(売出価格)
- 物件の情報
登記名義人とは、不動産の所有権や賃貸権、抵当権などの権利を持つ人のこと。また、物件の情報には、建物の種類や構造、間取り、土地と建物の面積などを記載します。
依頼主の要望は不動産会社が記載します。依頼相談の時点で、売主が伝えるか、もしくは伝えなくても不動産会社が依頼受諾時点で不動産や依頼者の基本的な情報を確認します。
作成時のアドバイスとしては、「どこ(所在)」「だれ(所有者)」「いくら(金額)」の3つが特に重要です。この3つを売主と仲介会社双方で媒介契約書にて確認することで、大きなトラブルは防げるようになっています。
不動産会社が専任媒介契約書に記載する内容
不動産会社は、専任媒介契約書に契約が専任媒介契約であることや、取引きの成約・媒介に関わる業務を依頼者のために履行する旨を記載します。
また契約違反をした場合の違約金や、不動産会社に支払う報酬(仲介手数料)に関する記載も必要です。
【不動産会社が専任媒介契約書に記載する内容】
- 専任媒介契約の契約書であること
- 成約に向けた義務の履行
- 媒介にかかわる業務の履行
- 有効期限
- 仲介手数料の額
- 仲介手数料受領の時期
- 特約事項
- 違約金などの取決め
より詳しい内容は下記の記事で說明しています。
専任媒介契約書の作成時に必要な書類や準備物
専任媒介契約書の作成には、本人を証明するための身分証明書と、物件所有者を証明する登記済権利証、または登記識別情報通知書が必要です。なお、専任媒介契約書の作成に、実印や印鑑証明は必要ありません。
【専任媒介契約書の作成に必要なもの】
- 身分証明書(運転免許証・パスポートなど)
- 登記済権利証、または登記識別情報通知書
また、必ず用意しなければならないわけではありませんが、建物に関する書類を用意しておくと物件状況の報告書作成に役立ちます。
【専任媒介契約書の作成にあったほうがいい書類】
- 間取図面
- 固定資産税・都市計画税の通知書
- ローン残高がわかる書類
- マンションの管理規約
- マンションの管理費・修繕積立金に関する書類
- 三文判
専任媒介契約時の確認項目
専任媒介契約の締結のために作成される専任媒介契約書の中で依頼者が確認しておく項目を解説します。事前に確認しておくことで、契約上のトラブルを避けることが可能です。
おもに次の5つを確認しましょう。
- 標準媒介約款(標準約款)に基づいて作成されているか
- 契約期間
- 仲介業務の内容・義務
- 仲介手数料と支払時期
- 反社会勢力の排除が記載されているか
それぞれを詳しく解説します。
標準媒介約款(標準約款)に基づいて作成されているか
「標準約款」とは、国土交通省が定めた媒介契約の基本事項です。媒介契約書は依頼者に不利益が被らないよう、この標準約款に基づいて作成されるのが一般的。
不動産会社は、「標準媒介契約約款に基づくものであるか否かの別」という文言を媒介契約書に記載する義務があります。
法律上、標準約款を使用しないことも可能であるため、契約が標準約款に基づくものであるかをよく確認することが大切です。
契約期間
基本的に専任媒介契約の契約有効期限は3ヵ月以内と定められています。短い有効期限を設けることで、依頼者が定期的に不動産会社を検討し直したり、不動産会社の活発な売却活動を促したりする仕組みです。
中には、1ヵ月や2ヵ月などの契約期限を設けている不動産会社もあるため「契約期間」をよく確認しましょう。
仲介業務の内容・義務
不動産会社が提示する、仲介業務の内容や法的義務に関する記載も、重要な確認事項です。具体的には、レインズ登録の有無や広告宣伝の内容、顧客への紹介手順をはじめとする販売活動内容などが挙げられます。
さらに、不動産会社で受けられるそのほかのサービスについても事前に確認しておきましょう。
仲介手数料と支払時期
不動産会社に支払う仲介手数料と、その支払時期をしっかり確認しておくと安心です。
仲介手数料は法律上、不動産の売買価格によって上限額が決まっています。
不動産売買価格 | 仲介手数料 |
---|---|
200万円以下の部分 | 売買価格の5%以内+消費税 |
200万円を超える400万円以下の部分 | 売買価格の4%以内+消費税 |
400万円を超える部分 | 売買価格の3%以内+消費税 |
仲介手数料は、金額区分ごとに分解して計算します。
例:売買価格が1,000万円の場合
- 200万円以下の部分(200万円×5%=10万円)
- 200万円を超える400万円以下の部分(200万円×4%=8万円)
- 400万円を超える1,000万円までの部分(600万円×3%=18万円)
これらをすべて合計すると「10万円+8万円+18万円=36万円」になります。この合計に消費税を足した金額が仲介手数料の上限額です。
なお、売買価格が400万円を超える物件の場合は、次の速算式でも算出が可能です。
売買価格×3%+6万円+消費税=仲介手数料上限額
また仲介手数料を支払うタイミングは、売買契約締結時に支払う会社もあれば、契約時と引渡し時に半分ずつ支払う会社もあり、不動産会社によって異なります。
反社会勢力の排除が記載されているか
「反社会勢力の排除」に関する条項も、大切な確認事項のひとつです。2011年(平成23年)6月以降、反社会的勢力排除のための標準モデル条項が不動産の契約書に導入されています。
後のトラブルを防ぐためにも、この「反社会勢力の排除」に関する標準モデル条項が、契約書に盛り込まれているかをよく確認しましょう。
媒介契約書は、標準約款に基づいて作成されているか否かが大きなポイントです。なぜなら、これに基づいて作成されているものならば、見やすくかつ抜けがないため、売主と業者の双方にて認識の相違がなくなります。
不動産会社のほとんどは、協会(各都道府県宅建協会か全日本不動産協会)に所属しています。協会では標準約款が提供されているため、媒介契約書の欄外に「協会作成」の印字があるかどうかを確認しましょう。
また、専任媒介の場合は契約期間の上限は3ヵ月です。自動更新はなく、契約が終了したら新たに契約を結び直すのか、別の不動産会社に変更するのか検討しましょう。
専任媒介契約時の注意点
不動産会社とのトラブルを回避し、早期に買い手を見つけるためにも、専任媒介契約のまえに確認しておきたい注意点について説明します。
不動産会社の売却力が重要になる
専任媒介契約は、比較的、早期に買主が見つかりやすい契約形態のひとつですが、1社の契約のみで複数の不動産会社と同時取引はできません。そのため、早期に買主を見つけるためにも不動産会社の売却力が重要です。
売買活動に力を入れてくれる信頼度の高い業者を見つけるには、不動産会社の査定は1社ではなく、複数の会社に依頼するとよいでしょう。その際、複数社の査定が無料で行える、一括査定がおすすめです。
囲い込みをされる可能性がある
不動産会社は仲介手数料をおもな収入源にしていますが、売主と買主の両方の仲介を同時にすることで双方から手数料を受け取ることができる「両手仲介」というものがあります。
確実に「両手仲介」を狙うため、不動産会社が意図的にほかの会社に紹介しない行為のことを「囲い込み」と呼びます。
本来、不動産会社は全国の不動産情報を共有する「レインズ」に登録して、早期に買主を見つける努力が求められます。ほかの不動産会社で該当物件の購入者が見つかった場合は、その依頼に応じなければなりません。
囲い込みをされると、不動産の売却価格が相場以下になる可能性があるほか、買主が早期に見つからないなどのマイナス点があります。
専任媒介契約を締結する際は、不動産会社がレインズに物件情報を登録しているか、また、買主が決まっていない段階にも関わらず「商談中」になっていないかなどを調べることが大切です。
専任媒介契約書についてよくある質問
ここでは、解約や違約金などの専任媒介契約に関してよくある質問に答えます。
専任媒介契約書は締結後に解約できる?
原則として、専任媒介契約は契約期間が定められているので、その間は解約できません。ただし、不動産会社側が誠実な業務遂行を怠った場合は、契約期間中でも解約が可能です。
より詳しい内容はこちらの記事で解説しています。
専任媒介契約期間内の違約金はどのくらいかかる?
先述の通り、原則的に専任媒介契約期間の中途解約は認められません。しかし、売却の必要がなくなった場合や、突然、知人から物件を購入したいと申し出があった場合など、不動産会社側の落ち度以外の理由で解約するケースもあるでしょう。
このような場合、それまでの広告費用や交通費・通信費などの売却活動で生じた費用を不動産会社が負担することもありますが、会社によってはペナルティとして違約金が発生する場合もあります。
ただし、違約金の上限は、標準媒介契約約款によって「仲介手数料の上限額」と定められており、売買価格の3%に6万円と消費税をプラスして算出するのが一般的です。
契約書の作成に必要な書類は事前に準備しておこう
専任媒介契約の締結に必要な「専任媒介契約書」は、標準約款に基づいて作成されているか確認するのがポイントです。不動産会社とのトラブルを防ぐためにも、契約書の記載内容にはしっかり目を通しましょう。
具体的な確認事項は、契約期間や仲介業務内容のほか、レインズ登録の有無、仲介手数料の額やその支払い時期などが挙げられます。
また手続きをスムーズに進めるためにも、身分証明書や登記済権利証など、専任媒介契約書の作成に必要な書類は事前に準備しておくと安心です。
不動産会社側は各種手続きに慣れているため、中小の不動産会社の中には媒介契約書を作成しないような会社もあります。売買契約書ほど重要でなく、営業担当が忘れてしまうこともあるので、売却の相談時点で、媒介契約書の締結時期について確認しておきましょう。
不動産会社は自社での仲介成約を目指して力を入れるため、専任媒介契約を締結することが多いです。信頼のおける不動産会社であれば、専任媒介契約を結んで問題ないでしょう。