空き家売却の9つの注意点|売却前・売却活動中・売却後に分けて解説
相続などで取得した空き家を売却する際には、さまざまな注意点があります。
売る前には、登記簿や住宅ローンの返済状況の確認、買主を探す段階では物件情報をしっかりと提供するなど、要所を押さえて売却活動を行いましょう。
ここでは、損や失敗をせずに空き家を売るための注意点を売却前・売却依頼中・売却後の3つのタイミングに分けて解説します。
- 空き家を売る前の注意点(売却の条件など)
- 売却依頼中の注意点(損害賠償リスクなど)
- 空き家を売ったあとの注意点(税金について)
空き家を売却する前の注意点
- 登記名義人が売主ではない場合は売却できない
- 住宅ローンが残っている場合は抵当権抹消が必要
登記簿の名義が売主と異なる場合や、抵当権が残っている場合は、売却することができません。
また、空き家をより高く、希望時期に売るためには、以下の3点を抑える必要があります。
- 不動産の状態・要望に応じて最適な売却方法が異なる
- 依頼先の不動産会社は2社以上比較検討する
- 自己判断で解体やリフォームを行わない
合計5つの注意点について、それぞれ見ていきましょう。
登記名義人が売主ではない場合は売却できない
空き家に限らず、不動産を売却しようとする場合は、登記名義人と売主が一致していなければなりません。
相続した不動産であれば、まずは登記簿謄本(登記事項証明書)を請求し、登記名義人が誰になっているかを確認する必要があります。登記簿謄本の請求手段は下記の通りとなり、家屋番号がわかるとスムーズです。
- 法務局窓口または郵送で請求する
- オンライン請求を利用する
- 方法が分からない場合は、司法書士に依頼する
空き家を取得したきっかけが相続のケースでは、何も手続きしなければ、登記名義人は亡くなった人のままです。所有権移転登記(相続登記)の申請をすることで、売主である相続人を登記名義人とすることが可能です。
所有権移転登記は、多くの書類と専門知識を必要とするため、司法書士に依頼するのがベターです。費用は不動産1個あたり3万円~11万円程度が相場ですが、依頼する司法書士によって変わります。
住宅ローンが残っている場合は抵当権抹消が必要
住宅ローン返済中の空き家には「抵当権」が設定されています。抵当権のついている空き家は、買主の手に渡ったあとになって競売にかけられる恐れがあるため、このままでは売却することができません。当てはまる場合は、次の順で抵当権を抹消する必要があります。
【1】住宅ローンの返済
相続した空き家の住宅ローンは、住宅ローン契約時に加入した団体信用生命保険(住宅ローン利用者が死亡等の場合に返済金額がゼロになる保険)の保険金請求により、完済できるのが一般的です。ただし、保険未加入などの理由で完済できない場合は、金融機関の審査を改めて受け、完済まで支払い続けなくてはなりません。
【2】抵当権抹消登記
住宅ローンを完済しても、自動的に抵当権が外れるわけではありません。自身で抵当権抹消登記を申請する必要があります。登記申請は、所有権移転登記と同じく、司法書士に依頼するのが確実です。
また、ローンを完済することができず、返済能力もないケースでは、売却代金を返済に充てることを条件に抵当権抹消に応じてもらう「任意売却」を検討することになるでしょう。
なお、住宅ローンが残っているかどうかは、借入先の金融機関のウェブサイトや返済予定表、残高証明書で確認できます。
不動産の状態・要望に応じて最適な売却方法が異なる
空き家の売却には、不動産会社に買主とのマッチングを依頼する「仲介」と、不動産会社が買主となる「買取」の2つの方法があります。どちらの方法が適しているかは、売りたい空き家の条件や、希望価格・希望する売却時期によって異なります。
仲介が適している物件・希望 | 買取が適している物件・希望 | |
---|---|---|
空き家の条件 | ・建物が新しい ・汚損・破損が少ない ・立地条件が良い | ・建物が古い ・汚損・破損が少ない ・立地条件が悪い |
売主の希望 | ・なるべく高く売りたい ・売却時期より値段優先 | ・なるべく早く売りたい ・売却価格より時期優先 ・売却費用を抑えたい |
空き家の状態が良好で高く売れる期待があるときは、買取に比べて高く売れる「仲介」が適切です。ただし、仲介手数料や販売活動のための時間を必要とする点には、十分注意しましょう。
一方で、空き家の状態があまり良くない場合は、相場より安くなりがちでも「買取」が適します。速やかに現金化でき、仲介手数料もかからないため、心理的・経済的な負担を少なく済ませることが可能です。
依頼先の不動産会社は2社以上比較検討する
空き家売却の依頼先探しでは、複数の不動産会社に査定を依頼しましょう。
不動産会社のなかには、安価でも買い叩きを狙う会社や、自社で仲介の依頼を受けるために現実的ではない高額の査定を停止してくる会社もあります。
このような悪質な不動産会社を避けるためには、1社だけではなく、複数の不動産会社から査定を受け、比較/検討したうえで、信頼できる不動産会社に依頼するべきです。
少なくとも2社以上、可能であれば5社から6社程度は査定を依頼しましょう。
また、査定結果をもとに不動産会社を選ぶ際は、以下のような要素もチェックしてみてください。
- 得意とする物件や売却方法の分野(空き家、マンション、戸建て、仲介、買取など)
- 査定額とその根拠が明確に説明されるか
- マップなどで確認できる口コミ・レビュー
- 電話などで相談したとき、親身になってくれるか
不動産会社の得意分野に「空き家売却・買取」が含まれているかどうかは、売れる時期や条件に大きく影響します。
次に重要なのは、査定額の適正さと、その根拠の説明です。査定額の多寡だけではなく、その額になった根拠がしっかりと明示されているかどうかで、信頼できる不動産会社かどうかを判断しましょう。
また、売却費用の高さや売れるまでの期間は不動産会社によって変わるほか、上述のように悪質な不動産会社も存在するため、評判や対応についてもチェックしておきましょう。
初めて依頼先を探す際には、各不動産会社の公式ウェブサイトで簡易査定を行い、気になる会社を見つけたら「訪問査定」に進むのが一般的です。
効率がいいのは、一括査定サイトの利用です。自分で地域の不動産会社を探し回る手間がなく、一度の入力で複数の会社にまとめて査定依頼できます。一括査定なら、同時に最大6社に対応するズバット不動産売却がおすすめです。
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査定依頼してみる完全無料自己判断で解体やリフォームを行わない
空き家を売却する前に、自己判断で解体やリフォームを行うのは避けましょう。
「リフォームすれば建物の価値が上がる」「土地だけなら需要がある」と考える人もいますが、実際には以下の例のように、リフォームや解体をすることで逆に損をしてしまうケースは少なくありません。
- 見込み買主の好みや地域の需要を考慮しないと、逆に価値が下がる
- 売却価格に影響のない必要なリフォームのせいで、利益が下がる
- 固定資産税の軽減措置が外れ、翌年の固定資産税が6倍になる
リフォームの要否や方針については、地域の取引事例に詳しい不動産会社と相談するとよいでしょう。地域のニーズに応じたアドバイスが得られたり、建築事務所を紹介してもらったりすることが可能です。
解体する場合には、固定資産税の軽減措置が継続するように翌年の1月2日以降に工事を開始し、翌年の1月1日までに売るという手段があります。課税に詳しい不動産会社に事前相談するのがベストです。
空き家売却を依頼している間の注意点
空き家売却を不動産会社に依頼し、実際に売却活動に入るときは、以下のような項目に注意しましょう。
- 空き家のマイナス面を告げないとトラブルになる
- 売り出し価格は高めに設定しておく
とくに気を付けたいのは、空き家のマイナス面に関することです。
空き家のマイナス面を告げないとトラブルになる
空き家のマイナス面を告げずに売ると、民法で定める「契約不適合責任」を問われる恐れがあります。契約不適合責任とは、仲介取引を行った後、引き渡した物件の状態が事前説明と異なることが判明した場合に、売主が問われる責任です。
説明しておくべきマイナス面には、具体的に次のようなものがあります。
- シロアリ被害
- 窓や外壁の破損
- 給排水管などの設備の破損
- 耐震強度の不足
- 石綿(アスベスト)の使用 など
- 地盤沈下
- 近隣とのトラブル(境界線など)
- 撤去が必要な地中埋設物(ゴミなど) など
万一、上記のような破損や欠陥を告げずに売却すると、売主が下記のような責任を問われることになります。
- 売主への補修の請求
- 買主が負担した補修金額の請求
- 損害賠償請求(買主が物件購入後に得るはずだった利益含む)
- 契約解除(※状況によって解除の可否は異なる)
契約不適合責任を負うリスクは、住宅の状況を診断してくれるホームインスペクションの実施で避けられます。費用の相場は5万円から10万円程度で、不動産会社から業者を紹介してもらうことも可能です。
住宅診断の結果があれば、購入時の安心にもつながるため、売却も決まりやすくなるでしょう。
契約不適合責任(※改正前民法では瑕疵担保責任)は、不適合となる理由を売主が知らなかったケースでも問われます。住宅には、床下や屋根裏など普段目の届きにくい場所が多いため、点検すべき箇所を知る専門家にチェックしてもらうのがベストです。
売り出し価格を高めに設定しておく
売り出し価格は高めに設定するとよいでしょう。不動産売買においては、値下げ交渉が一般的であるため、交渉の余地を確保するために高めの価格設定にしておく必要があるのです。
逆に「確実に売却できる」と考える下限価格で売り出すと、値下げ交渉に応じた際に、相場を下回ってしまう可能性があります。
価格設定は、不動産会社の担当者としっかりと相談することが重要です。地域の市況や物件の特性を踏まえたうえでの売り出し価格なら、期待を大幅に下回る価格で売れるケースはほとんどありません。
空き家を売却したあとの注意点
空き家の売却が完了しても油断は禁物です。翌年には確定申告が必要になり、このとき売却対価に対して、譲渡所得税と住民税がかかります。税金を過大に支払わないために、次の2点に注意しましょう。
- 空き家の取得費を把握しておく
- 特別控除の特例が適用されるか必ず確認する
取得費や特例による特別控除は、売却で得た対価から差し引いて、課税対象となる部分(課税所得)の計算に用います。それぞれの適用状況が納めるべき課税額を大きく左右します。
空き家の取得費を把握しておく
取得費とは、空き家を取得した際にかかった費用の総額を指します。具体的には、家の購入代金、建築費用、リフォーム費用、購入時の仲介手数料などが含まれます。通常、これらの詳細は購入時の売買契約書に記載されています。
取得費が不明な場合は売却価格の5%が取得費とみなされます。
実際に下記の設定を用いて、取得費がわかる場合と、取得費不明の場合の5%方式で譲渡所得税額の算出をしてみましょう。
<設定>
空き家の売却代金:3,000万円
取得費:2,500万円(取得費を把握している場合)
※わかりやすいように、家の購入代金以外の取得費は省いています。
所有期間5年以下:(3,000万円-2,500万円)×39.63%=【約199万円】
所有期間5年超:(3,000万円-2,500万円)×20.315%=【約102万円】
所有期間5年以下:3,000万円-(3,000万円×5%)×39.63%=【約1,129万円】 所有期間5年超:3,000万円-(3,000万円×5%)×20.315%=【約579万円】
譲渡所得税の税率は、空き家の所有期間によって変わります。
所有期間が同じ空き家同士で比較してみると、取得費がわかる場合と取得費不明の場合とでは、5倍程度の差が生まれていることがわかります。当時購入した不動産の取得費が売却代金を超えており、本来税金を支払わなくてもよいケースでも、取得費を把握していなければ売却した金額の5%が取得費とされるため、税金を支払う必要が生じてしまいます。
取得費の調査方法は、売買契約書以外にも、いくつか手段があります。市街地価格指数から取得費を推定する方法や、購入当時の路線価から取得費を推定する方法などです。いずれも難易度が高いため、不動産会社の担当者に相談したり、税理士に聞いてみたりするのが確実です。
特別控除の特例が適用されるか必ず確認する
上述したとおり、不動産の売却によって利益が出た場合には譲渡所得税を支払う必要があります。しかし、特別控除の特例を適用すれば、3,000万円までの利益に対しては税金がかからなくなります。通称「空き家特例」と呼ばれる制度です。
適用にはいくつかの要件に当てはまる必要がありますが、適用されれば大きく税負担を抑えられるため是非知っておきたい制度です。
空き家特例の適用要件は、別の記事で分かりやすく解説しています。参考にしてみてください。
空き家売却における注意点【まとめ】
空き家を売るための最低条件として、登記名義人と売主を一致させ、抵当権を抹消しておく必要があります。優良な不動産会社に依頼できるよう比較検討し、解体・リフォームについては事前に不動産会社に相談することも大切です。
本格的に売却の活動に入るときは、住宅診断を実施し、売り出し価格もしっかりと打ち合わせをしましょう。空き家を売ったあとの課税額を適切に判断することも重要です。
空き家は手続きやメンテナンスなしに長く放置されていることが多く、いざ売ろう・活用しようとなったときに、予想外の壁に阻まれがちです。売るかどうか決まっていない段階でも、不安があれば不動産会社に相談してみてください。
築年数が古い空き家のなかには、最後の居住者より前の世代の人(祖父母など)が登記名義人であるものも存在します。以前の相続で所有権移転登記をしていない上記のような物件は、数次相続に伴う登記申請を必要とし、司法書士への依頼が必須になる・売却準備が整うまで時間がかかるなどの問題があります