【相続した土地の売却】売却の手順や節税できる特例について把握しよう
土地の相続人が複数いる場合、土地そのものを分割することは難しいため、売却した代金を分割する方法をとることが多いです。しかし、相続した土地はそのままでは売却することはできず、いくつかの手続きを経なければなりません。また、相続した土地の売却で適用できるいくつか特例には期限があるため、すぐに行動しなければならない場合もあります。
この記事では、相続した土地を売却する手順や売却にかかる費用だけでなく、節税につながる特例についてもわかりやすく説明します。
【監修】穂坂 潤平 宅地建物取引士。仲介営業13年(宅建は新卒の時に取得)、不動産仲介会社起業3年の経験を経てウェブクルーに入社。趣味は何でも遊びにすること。仕事では「喜ばれる仕事をして、自らも喜ぶこと」をモットーに日々ご提案しております!
相続した土地の売却の手順
いざ、相続した土地を売却しようとしても、どのような手順で進めるのかわからないという人もいることでしょう。そこで、まず相続した土地の売却手順についてわかりやすく説明します。手順を把握しておけば、次に何をすれば良いのかがわかるため安心です。
相続した土地の売却手順は、次のような流れになります。
- 遺言書や相続人を確認
- 遺産分割協議を行う
- 相続登記する
- 不動産会社に売却を依頼する
- 土地の売却金額を分配する
- 相続人それぞれが相続税を納税する
最初に、相続した土地の売却手順、それぞれについて詳しく見てみましょう。
STEP1:遺言書や相続人を確認
相続される人(被相続人)が亡くなって相続が発生した場合、最初に遺言書や相続人の確認をします。相続される財産が土地の場合は、その土地を相続する人や人数を明確にしましょう。
遺言書が残されている場合は、遺言書の内容に従います。遺言書がない場合は、亡くなった被相続人の戸籍謄本や除籍謄本を取得した上で、法定相続人の確定が必要です。自分で調べるのがたいへんな場合は、弁護士に相談や依頼をするのもいいでしょう。
STEP2:遺産分割協議を行う
確定した土地の相続人が複数人いる場合は、遺産分割協議を行う必要があります。遺産分割協議とは、相続人同士で遺産をどのように分割するかを決める話し合いのことです。
遺産分割協議で分割する方法や内容が決まったら、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書には、相続人全員の署名捺印が必要です。
相続人同士の間で遺産分割協議がうまくまとまらなかった場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立ててまとめてもらう必要があります。
STEP3:相続登記する
遺産となる土地の相続人が確定したら、相続登記をして土地の名義人を亡くなった被相続人から相続した人に移す必要があります。なぜなら、土地の名義人、つまり所有者が亡くなった被相続人のままでは、売却ができないからです。
相続登記は、法務局で登記申請書と必要書類を提出して手続きします。司法書士に手続きを依頼することも可能です。相続登記の際には、次のような書類が必要になります。
被相続人(亡くなった人)に関するもの | ・戸籍謄本、除籍謄本 ・住民票の除票(または戸籍の附票) |
---|---|
相続人(全員)に関するもの | ・戸籍謄本 ・住民票 |
その他 | ・土地の固定資産評価証明書 ・相続関係の説明図 ・遺産分割協議書 ・印鑑証明書 ・土地の登記済権利証 ・相続人全員の本人確認資料(運転免許証等) |
また、相続登記の登録免許税が必要です。相続による土地の名義変更の登録免許税は、次の計算で求められます。
不動産の固定資産評価額×0.4%=相続による所有権移転登記の登録免許税額
例えば、固定資産評価額が2,000万円の土地の相続登記に課せられる登録免許税の額は、次の通りです。
2,000万円×0.004=8万円
相続登記の手続きが大変な場合は、司法書士に依頼もできます。その際の報酬の相場額は、相続する土地の評価額や司法書士事務所にもよりますが、5万~10万円程度です。
STEP4:不動産会社に売却を依頼する
相続登記をして相続した土地の名義人が相続人に移れば、ようやく土地を売却できます。相続した土地を売却する際も、一般的な土地の売却と同じように、不動産会社に売却を依頼して仲介で売るケースが多いです。
複数の不動産会社に査定を依頼し、そのなかから売却を依頼する不動産会社を選びます。そして、媒介契約を結んで正式に売却を依頼すれば、不動産会社による販売活動の開始です。購入希望者が現れれば、売買契約を締結して土地を売却します。
STEP5:土地の売却金額を分配する
相続した土地が売れて売却した代金が手に入ったら、そこから土地の売却にかかった費用などをまず差し引きます。そして、遺産分割協議の内容に従って相続人同士で分配し、それぞれが受け取れば、土地の遺産分割が完了です。
STEP6:相続人それぞれが相続税を納税する
相続した土地の売却額を相続人で分けて受け取ったあと、それぞれの相続人が受け取った遺産の額に応じた相続税を納税します。
相続税の申告自体は、相続人全員の連名により一組の申告として提出可能です。しかし、納税は代表者ではなく、遺産を受け取った人によって納税することになります。
相続した土地の売却にかかる費用
相続した土地を売却する際にかかる費用は、通常の土地の売却にかかる費用と同じです。どのような費用がいくらぐらいかかるのかを前もって把握しておけば、相続した土地の売却代金がいくらぐらい残りそうかの目途を付けやすくなります。
相続した土地の売却にかかる費用は、次の通りです。
- 不動産会社に支払う仲介手数料
- 土地の計測費や建物の解体費
それぞれについて、詳しく見てみましょう。
仲介手数料
仲介手数料とは、土地などの不動産の売却や購入の仲介を不動産会社に依頼し、それが成約した際に発生する手数料です。仲介手数料は成功報酬のため、依頼した売却や購入が成約しなければ発生しません。
また、仲介手数料は法律で上限額が定められており、不動産会社は上限額以内で自由に設定できます。しかし、上限額いっぱいに仲介手数料の額を設定している不動産会社がほとんどです。
仲介手数料の上限額は、400万円以上の取引きの場合、次の計算式で求められます。
取引額×0.03+6万円+消費税
例えば、相続した土地が1,500万円で売れた場合の仲介手数料の上限額は、次の通りです。
1,500万円×0.03+6万円×1.1=56万1,000円
土地の計測費や建物の解体費
相続した土地の境界線が確定していない場合は、境界線を確定したり正しい面積を出したりするための測量が必要になるため、測量費がかかります。また、土地に残っている不要な建物や古家を解体して売却する場合は、解体費が必要です。
境界線について、法務局から地積測量図、境界確認書を取得して調べてもわからない場合は、測量士や土地家屋調査士に依頼をして測量してもらいます。
測量費用の相場額は、100平方メートル程度の一般的な四角い土地の場合、現況測量なら約10~20万円、土地の売却時に必要な確定測量なら約40~50万円です。道路との境界線などで役所の立会いが必要な場合は、10~30万円程度が追加で必要になります。
建物の解体費用は、構造や大きさによって異なります。おおよその目安は、次の表の通りです。
構造 | 解体にかかる費用(坪単価) |
---|---|
木造 | 3~4万円 |
鉄骨造 | 4~5万円 |
鉄筋コンクリート造 | 5~6万円 |
相続した土地の売却にかかる税金
相続した土地を売却する際は、諸費用だけでなく税金もかかります。これも通常の土地の売却と同じです。土地の売却時にかかる税金には、おもに次の通り。
- 印紙税
- 登録免許税
- 譲渡所得税(所得税・住民税)
売買契約書は課税文書のため、印紙税が課せられます。契約書に記載されている取引額に応じた印紙税額分の収入印紙を添付しなければなりません。
また、売却に伴う登記手続きが必要な場合は、登録免許税が必要です。さらに、土地を売却して利益が発生した場合には、その利益に対して所得税と住民税から成る譲渡所得税が課せられます。
相続した土地を売却した際にかかる税金については、下記の記事でより詳しく解説しています。
相続した土地売却にかかる税金を節税できる特例は?
相続した土地を売却した場合、その売却代金に対して税金が課せられます。しかし、相続した土地の売却に関する特例や控除などを適用すれば、税金額を安く抑えることが可能です。
ここでは、相続した土地の売却にかかる税金の節税方法について説明します。相続した土地を売却する前に、特例の種類や内容、適用するためにはどのような要件を満たさなければならないのかを把握しておきましょう。
取得費加算の特例
これは、相続開始のあった日の翌日から、相続税の申告期限(相続開始から10ヵ月後)の翌日以後3年以内に売却した場合、次の要件を満たせば相続税として支払った額の一部分を取得費として加算計上できる特例です。
- 相続(または遺贈)により取得した不動産であること
- 相続税が課税されていること
- 相続開始の翌日からカウントして、3年10ヵ月以内に売却すること
取得費として加算できる相続税額は、次の計算式で求められます。
譲渡した人の納付すべき相続税額×(譲渡資産の相続税の課税価格÷債務控除前のその人の相続税の課税価格)=取得費に加算できる相続税額
この特例は、後述で説明する「被相続人の居住用財産(空き家)を売った時の特例」と併用はできません。相続税や土地の評価額が高くて計算がたいへんな場合は、税務署の相談窓ときや税理士に相談することをおすすめします。
更地の場合
相続した土地に住宅や建物などがなく、更地の場合に要件を満たせば適用できる特例を説明します。更地の場合、使える特例は少ないですが、相続した土地が農地の場合、次のような特例が適用可能です。
農地の納税猶予の特例
この特例は、農地を相続して農業を引き継ぐ場合、相続人が農業を営んでいる間は、相続税を納めなくてもよいというものです。
この特例の適用には、さまざまな要件を満たす必要があります。おもな要件は、次の通りです。
- 被相続人が亡くなるまで農業を営んでいた
- 相続人が相続税の申告期限までに農業経営を継続・開始すること
- 被相続人が農業の用に供していた農地で、相続税の申告期限までに遺産分割されたもの
農業をやめた場合や農地の一部を売却した場合は、猶予が取り消されることもあるため注意が必要です。
詳しい要件については、国税庁「No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例」で確認してください。
また、相続人が農業を20年間継続してから亡くなった場合などは、納税が猶予から免除されます。この適用にも、いくつかの要件を満たすことが必要です。
宅地がある場合
家や建物がある土地(宅地)を相続して売却した場合、更地よりも適用できる特例が多くなります。ここでは、相続した宅地を売却した際に、適用できる特例について説明します。
小規模宅地の特例
この特例は、相続した土地に自宅や賃貸住宅などがあり、被相続人が亡くなるまで使用していた場合は、その土地の相続税評価額を最大で80%減額できるというものです。
減額の割合は、どのような用途かによって次の表のように異なります。
用途(利用区分) | 上限面積(平方メートル) | 減額の割合(%) |
---|---|---|
自宅用 | 330 | 80 |
事業用 | 400 | 80 |
貸付事業用 | 200 | 50 |
自宅の場合、相続人のおもな要件は次の通りです。
- 相続人が配偶者の場合は要件はなし
- 同居している親族が相続する場合は、相続開始のときから相続税の申告期限まで居住していること
同居していない親族が相続する場合は適用条件が厳しくなるため注意が必要です。また、貸付事業用、事業用で適用する際にも、さまざまな要件を満たすことが求められます。
詳しい特例の内容や適用要件は、国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」で確認してください。
被相続人の居住用財産(空き家)を売った時の特例
これは、相続して売却した土地や建物が居住用として使われていた場合、2023年(令和5年)12月31日までに売却して一定の要件を満たせば、譲渡所得額から最高3,000万円まで控除できるという特例です。
この特例を適用すれば、相続した不動産を売却した際の譲渡所得が3,000万円以下であれば、譲渡所得税がかかりません。
特例を適用するためには、さまざまな要件を満たす必要があります。おもな要件は、次の通りです。
- 1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された建物
- マンションなどの区分所有建物でないこと
- 相続の開始の前に被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと
- 売却したのが、相続(または遺贈)によって取得した不動産であること
- 相続開始日から3年を経過する日の年の12月31日までに売却すること
- 売却代金が1億円以下であること
- 売却した不動産について、取得費の特例や収用等の場合の特別控除など、ほかの特例の適用を受けていないこと
- 親子や夫婦など特別の関係がある人同士の売買でないこと
ほかにも満たさなければならない要件があるため、詳しくは国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」で確認してください。
相続した土地売却で発生した譲渡所得税の納税方法
相続した土地を売却した際の利益(譲渡所得)に対して課せられる譲渡所得税は、相続税とは別に納めなければなりません。
ここでは、相続した土地売却で発生した譲渡所得税の納税方法を説明します。
譲渡所得税は確定申告で納税する
相続した土地を売却して得られた譲渡所得に課せられる譲渡所得税は、売却した翌年に確定申告をして納めます。
確定申告は、年によって異なる場合もありますが、通常2月16日から3月15日までに申告が必要です。譲渡所得税のうち、所得税は確定申告をした際に納め、住民税については確定申告後の6月頃から4期にわたって納税します。
譲渡所得税の納税時に必要な書類
相続した土地を売却して譲渡所得税が発生した際の確定申告で必要な書類は、次の通り。
- 確定申告書B様式(譲渡所得がある場合)
- 確定申告書第三表(分離課税用の申告書)
- 譲渡所得の内訳書
- 売買契約書(取得時と売却時のもの)
- 取得費として計上する費用の領収書
- 譲渡費用として計上する費用の領収書
- 対象となる不動産の登記簿謄本(全部事項証明書)
- マイナンバーカードなど確定申告に必要な証明書
また、取得費加算の特例を利用する場合には、上記の書類の他に「相続税の申告書の写し」が、「相続した空き家の3,000万円控除」を利用する場合は、さらに「被相続人居住用家屋等確認書」と「耐震基準適合証明書(建設住宅性能評価書の写し)」が必要です。
相続した土地を売却する際の注意点
最後に、相続した土地を売却する際の注意点を見てみましょう。おもな注意点は、次の通りです。
- 相続人同士で充分な話し合いがないとトラブルに繋がる
- 相続した土地売却で特例を利用する際はタイミングに注意
- 売却を依頼する不動産会社は1社だけでなく複数社を比較する
それぞれの注意点について、ひとつずつ詳しく説明します。
相続人同士で充分な話し合いがないとトラブルにつながる
複数で相続した土地を売却する際は、相続人同士でしっかりと話し合うことが大切です。相続人同士の意思確認がきちんと行われていない状態で売却すると、相続人同士のトラブルに発展する可能性が高くなります。
相続した土地の遺産分割協議の際は、次のような項目を全員で確認し、取り決めておきましょう。
- 売却に際して、一時的に誰が所有するのか
- 売却した代金の分配方法
- 売却方法(仲介か買取か、など)
- 売却の期限(いつまでに売却するのか)
これらのことを話し合って決めたら、後々のトラブルを避けるためにも、書面に残しておくことが大切です。
相続した土地売却で特例を利用する際はタイミングに注意
相続した土地の売却で特例を適用する場合は、適用できる期限やタイミングがあります。
- 取得費加算の特例:相続発生日からカウントして3年10ヵ月以内に売却
- 被相続人の居住用財産を売ったときの特例:相続発生から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却
- 小規模宅地等の特例:相続してから10ヵ月を超えてから売却
どの特例を利用するのかを考えながら、売却するタイミングを見計らうようにしましょう。
売却を依頼する不動産会社は1社だけでなく複数社を比較する
相続した土地の売却に限ったことではありませんが、土地などの不動産を売却する際は、不動産会社にいくらぐらいで売れそうか、査定をしてもらう必要があります。不動産会社に査定してもらう場合は、複数社に依頼し、査定額や対応を比較することが大切です。
ただし、査定額はあくまでの売れそうな価格であり、必ず売却できる額ではありません。よって、不動産会社を選ぶ際は査定額の高さだけでなく、査定額の根拠をしっかりと説明できる、具体的な販売戦略を持っている、対応が丁寧で信頼できる、などといったポイントをチェックしましょう。
相続した土地を売却する際は相続人でよく話し合おう
土地は現金のように容易に分割できないため、複数人で相続した場合、売却した代金を分割することがあります。ただし、売却した代金がすべて手元に残るわけではなく、売却には費用や税金がかかることを踏まえておくことが大切です。相続した土地を売却する際は、売却方法や売却代金の分割方法などを前もって相続人同士でよく話し合っておくようにしましょう。
相続した土地を売却した際には、節税につながる特例がいくつかあります。特例を適用するための要件だけでなく、適用できる期間やタイミングなどを前もって確認しておき、節税のチャンスを逃さないようにしましょう。