不動産売却でも贈与税がかかる場合がある!不動産贈与の疑問を解決
不動産を売却して利益が出た場合や相続が発生した場合、状況や額によっては税金を納めることになります。贈与の場合も同様で、不動産を贈与した場合は、贈与税が課されることがあります。
売却などによる不動産の譲渡では贈与税はかかりませんが、贈与ではなく売却したと思っていても贈与税が課せられることがあるので注意が必要です。
しかし、どのような場合に贈与税がかかるのか、贈与税がいくらぐらいになるのかがわからなくて困っている人も多いことでしょう。
この記事では不動産の売却と贈与税との関係を詳しく説明していますので、不動産の贈与予定のある人はぜひ参考にしてください。
【監修】穂坂 潤平 宅地建物取引士。仲介営業13年(宅建は新卒の時に取得)、不動産仲介会社起業3年の経験を経てウェブクルーに入社。趣味は何でも遊びにすること。仕事では「喜ばれる仕事をして、自らも喜ぶこと」をモットーに日々ご提案しております!
不動産の贈与とは?
最初に不動産の「贈与」とはどのようなものか、相続や売却などによる譲渡とはどう違うのかを確認しましょう。
贈与とは不動産を無償で譲ること
不動産の贈与とは、代金などを受け取らずに無償で譲ることを指します。ただし、贈与する側と譲渡される側の合意が必要です。
贈与によって得た不動産かどうかは、登記簿謄本(登記事項証明書)で確認できます。贈与された不動産は、甲区(権利部)の権利者その他の事項欄に、所有権移転の原因が贈与と記載されています。
また、生前贈与という言葉を耳にすることがありますが、これは相続で発生する相続税を抑えるなどの目的のために、贈与者(財産を渡す側の人)が亡くなる前に贈与しておくというもので、贈与の形態のひとつです。
生前贈与に対して遺贈とは、贈与者が亡くなってから遺言書に従って不動産などの遺産の所有者移転を行うことになります。
贈与と相続、譲渡の違い
特徴 | 課税対象 | 税金 | |
---|---|---|---|
譲渡 | 代金などを受け取って不動産の権利を譲り渡すこと | 譲渡した人 | 譲渡所得税 |
贈与 | 無償で不動産の権利を譲り渡すこと | 贈与を受けた人 | 贈与税 |
相続 | 法定相続人が亡くなった人の不動産を引き継ぐこと | 相続を受けた人 | 相続税 |
不動産の贈与と相続、譲渡の違いは、それぞれの特徴から課税の対象となる人や課せられる税金が異なる点です。
譲渡、贈与、相続のいずれも受領する側に受け取る意思が必要ですが、財産の渡す側の意思については違いがあります。
譲渡や贈与であれば、財産を渡す側の意思を確実に反映させることが可能です。しかし相続の場合だと、遺言によって財産を渡す側の意思を反映できるものの、相続人が遺言の内容に異議を申し立てた場合、遺言通りの財産分与が行われない可能性があります。
不動産を贈与するには?
ここでは、実際に不動産を贈与することになった場合、どのような手続きや流れになるかを説明します。予め不動産贈与の流れを把握しておき、スムーズに手続きを進めましょう。
贈与される側の同意が必要
不動産の贈与は無償で譲り渡すことになりますが、一方的な贈与はできず、必ず贈与を受ける側との合意が求められます。なぜなら、贈与税が発生した場合、贈与税の支払い義務は贈与を受ける側に課せられるからです。不動産を贈与する際は、必ず贈与される側(受け取る側)に合意を取るようにしましょう。
不動産贈与の流れ
不動産の贈与は、無償で譲ると言っても物のように簡単にあげることはできません。不動産の贈与のおおまかな流れは次の通りです。
1. なぜ贈与をするのか目的を明確にする
2. 贈与税の課税方式を選択する
3. 贈与を受ける人の合意を得て贈与契約書を作成する
4. 贈与する不動産の所有者の名義を変更する
5. 贈与を受けた人が贈与税を申告して納付する
不動産贈与の流れで大切なポイントは、贈与契約書の作成です。
贈与は口頭でも成立しますが、契約書を作成しておけばトラブルの防止になります。贈与契約書には、贈与する不動産の情報と日付、不動産を贈与する人と受ける人の住所および氏名などを記載して、それぞれが署名捺印をしましょう。
さまざまなサイトで贈与契約書雛形やサンプルをダウンロードできるため、自身でも作成できますが、作成が難しい場合は司法書士や税理士などの専門家に相談するのもおすすめです。
不動産の贈与税を詳しく解説
ここでは、不動産の贈与税を説明します。贈与税とはどのようなものなのか、再確認しておきましょう。
贈与税の納税義務者
贈与税の納税義務者は、贈与された不動産を受け取った受贈者になります。そのため、贈与が成立するためには、受贈者の受け取りの意志が必要です。
また、贈与を受け取った際の贈与税の申告と納税期限は、原則、贈与された年の翌年2月1日~3月15日までとなっています。
贈与の方法と贈与税には、暦年課税と相続時精算課税とがあり、贈与を受ける受贈者は課税方法の選択が可能です。それぞれの課税方法の違いを次で詳しく見てみましょう。
贈与税(暦年課税)
暦年課税による贈与税の課税方法とは、1年間(1月1日~12月31日まで)で贈与を受けた資産額の合計から、110万円の基礎控除額を差し引いた額から贈与税を算出するというものです。
控除額が110万円なので、1年間に受けた贈与が110万円以下ならば贈与税がかからないことになります。
暦年課税による贈与税の税率は、贈与する側と贈与される側との関係によって異なる点が特徴です。
贈与側が父母や祖父母で受贈側が子や孫などの直系尊属の場合は「特例贈与財産用」の税率が、それ以外の場合は「一般贈与財産用」の税率が適用されます。
贈与税(相続時精算課税)
相続時精算課税による課税方法は、贈与として受贈者が受けた財産の総額から特別控除額として2,500万円を差し引き、その残額に贈与税を課すというものです。これにより2,500万円までは贈与税が課されないことになります。
贈与する側が亡くなった際は、それまでに贈与された財産と相続財産とを合計した資産の額を基準にして相続税の税額を算出し、それまでに支払った贈与税額を控除することが可能です。
よって、この相続時清算課税方式を選択できるのは、贈与者(贈与をする側の人)が60歳以上の父母や祖父母などで、受贈者(贈与を受ける側の人)が20歳以上の子や孫など(推定相続人)の場合のみとなります。
相続時精算課税によって贈与する財産の種類や回数の制限は特に定められていませんが、相続時精算課税方式を選択した場合は、暦年課税との併用はできません。
不動産の贈与税の計算方法
贈与税の課税方式には、暦年課税と相続時精算課税とがあることがわかりました。次に、それぞれの贈与税の計算方法を見てみましょう。
贈与税(暦年課税)の計算方法
まず、暦年課税方式による贈与税の計算方法を説明します。暦年課税による計算方法および計算式は次の通りです。
1. 贈与された財産の額から、基礎控除額である110万円を差し引いて課税される額を出す。
「贈与を受けた財産の合計」-「基礎控除額 110万円」= 「贈与税の課税価格(基礎控除後の課税価格)」
2. 税率一覧表から該当する額の控除額と税率を確認し、「贈与税の課税価格」と「税率」を乗じたあと、控除額を差し引いた金額が贈与税の金額となる。
「贈与税の課税価格(基礎控除後の課税価格)」×税率-控除額=実際に支払う贈与税の額
【特例贈与財産用(子や孫などに贈与する場合)】
基礎控除後の課税価格 | 特例税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
【一般贈与財産用(特例贈与以外の場合)】
基礎控除後の課税価格 | 一般税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
例えば、贈与により特例贈与財産1,000万円を取得した場合は次の通りです。
1,000万円-110万円(基礎控除額)= 890万円(基礎控除後の課税価格)
890万円×30%(特例税率)-90万円(控除額)=177万円(税額)
贈与税(相続時精算課税)の計算方法
次に、相続時精算課税方式による贈与税の計算方法を説明します。
相続時精算課税の特別控除は2,500万円です。よって、相続時精算課税制度の適用を選択した年からの贈与において、2,500万円に達するまでは贈与税が課せられません。
そして、贈与額の累計が2,500万円を超えた場合には、超えた金額に対して20%の税率で贈与税が課税されます。
例えば、次のような相続時精算課税のケースを計算してみましょう。
(例)20XX年に2,000万円の贈与をして相続時精算課税を選択し、それ以降、毎年、同じ贈与者から1,200万円ずつの贈与を受けるケース
1. 20XX年の贈与税の計算
2,000万円-2,500万円(特別控除分)=-500万円(控除残り500万円)
2. 200XX+1年後の贈与税の計算
1,200万円-500万円=700万円(贈与税の対象額)
700万円×20%=140万円(贈与税額)
3. 20XX年+2年後の贈与税の計算
1,200万円×20%=240万円(贈与税額)
※以降、同じ計算
不動産売却で贈与税がかかる場合
贈与税は、不動産などの財産を無償で譲り渡しが際に課せられる税金なので、売却をした場合、贈与税は課せられません。
しかし、不動産の売却条件によっては贈与税が課せられてしまう場合があります。どのような場合に、売却でも贈与税が課せられるのかを見てみましょう。
不動産売却で贈与税がかかるのか
贈与税が課せられるのは、無償で現金や不動産をあげた場合だけではありません。次のような場合にも贈与税が課せられることがあります。
- 不動産などを時価(相場価格)からかけ離れた価格で譲渡した場合
- 金銭を授受することなく不動産の所有者名義を変更した場合
- 不動産の譲渡によって借金などを免除した場合
また、ほかにも不動産を売却したにもかかわらず贈与税が課せられるケースがあります。どのような場合に課せられるのかを詳しく見てみましょう。
親族間での取引き
親子や兄弟、親戚の間などで不動産を売却することを親族間取引と呼びます。
親族間取引の場合、第三者への売却と違って価格を容易に操作が可能です。もしも通常よりも著しく安価で売却をしていた場合は、贈与と見なされ贈与税が課せられます。
贈与と見なされないためには、親族間取引であっても適正な価格で売買するようにしましょう。
関係会社間での取引き
同系列の会社間において、不動産などを時価や相場価格よりも安価で取引きした場合にも税金が課せられることがあります。
法人間であっても、贈与と見なされた場合は税金を支払わなければなりません。
個人間だと贈与税が課せられることになりますが、贈与税は個人に対する税なので法人には課せられません。その代わりに、受け取った受贈額に対して法人税が課せられることになります。
さらに、このような贈与したつもりでも売却と見なされた場合は、贈与をした法人側にも売却によって利益があったされるため、法人税が課せられることがあるので注意しましょう。
会社代表と法人間での取引き
会社の代表などの個人と法人との取引きの場合も、安すぎる売却の場合には贈与だと見なされることがあります。
贈与する側が法人か個人か、また贈与を受ける側が法人か個人によって贈与税が課せられるか法人税が課せられるかは違ってきますが、いずれにしても時価で取引きしたと見なされて税金が課せられることに違いはありません。
贈与する側と受け取る側とが、会社代表とその法人のような特別な場合は、税務署のチェックも厳しくなることを踏まえておきましょう。
不動産売却での贈与税に関するQ&A
最後に、不動産売却での贈与税についてよくある3つの疑問に対してQ&A式で説明します。
贈与税に特例はありますか?
父母から子へ、または祖父母から孫へなどの関係において住宅取得のための資金の贈与を受けた場合、一定の要件を満たせば「住宅取得の際の贈与税の特例」の適用を受けることが可能です。
この特例を受ければ、2023年(令和5年)12月31日までに住宅取得の契約をした場合、省エネ住宅などでは1,200万円、それ以外の住宅では700万円が贈与額から控除されます。
特例を適用するためには、購入する住宅や受贈者の要件を満たすことが必要です。要件の詳しい内容は、国税庁のサイト「財産をもらったとき」で確認できます。
贈与税以外にかかる税金はありますか?
不動産を相続した場合とは異なり、贈与により不動産を受け取った場合は、贈与税とは別に不動産取得税が課せられます。
贈与の際の不動産取得税の計算は、次の通りです。
固定資産税評価額 ×4%(※)=不動産取得税額
※2024年(令和6年)3月31日までは軽減税率の3%(居住用の住宅以外の建物は4%)
不動産売却で贈与税の発生を回避する方法はありますか?
税務署は不動産取引や登記簿謄本の所有者変更などを細かく把握しています。
親族間取引や同系列の法人間取引などが行われていれば、怪しい点がないか、適正価格で取引きされているかをチェックするので、取引きの申告をしていなくても回避できません。
そのため、不動産の売却で贈与税が課せられるといった事態を回避するためには、個人間、個人と法人間、そして法人間、いずれの取引きであっても、対象となる不動産を適正価格(時価や相場価格)で取引きすることです。
売却額が適正である資料として有効なのは、不動産鑑定士による鑑定評価になります。
不動産会社による無料の査定は、適正価格で売却する際の目安になりますが、税務調査を受けた場合の資料としては提出できないので注意しましょう。
不動産売却で贈与税がかからないように気を付けよう
不動産贈与とは無償で不動産を譲り渡すことで、贈与を受けた側の人が贈与税を納めることになります。
贈与税には、暦年課税と相続時精算課税とがあり、贈与を受ける受贈者は課税方法の選択が可能です。状況に合わせてどちらかを選ぶことになりますが、併用はできないことを覚えておきましょう。
また、時価や相場価格からかけ離れた額で売却した場合は、贈与と見なされて贈与税が課せられることがあります。不動産を売却したにもかかわらず贈与税が課せられるといった事態を避けるには、適正価格での売却が大切です。
不動産の売却で贈与税が課せられることがないよう、売却しようとしている不動産の適正価格はしっかりと調べておきましょう。