「一般媒介契約書」とは?基礎知識・締結時の確認ポイント
不動産を売却する際に必要な媒介契約書。媒介契約書とは、媒介契約時に売主と不動産会社とのあいだで取り交わされるもので、宅地建物取引業法により、依頼者にとって不利にならない内容を記載した書面を取り交わします。具体的には、売りたい物件の営業活動内容や成約した際の報酬料金(仲介手数料)、契約期間といった内容です。
媒介契約には「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」の3種類があり、どれを選ぶかによって売却時の結果が変わることも十分に考えられます。
本記事では、各契約の特徴を確認し、媒介契約の中でも制限が少ない「一般媒介契約」について詳しく解説していきます。
【監修】西崎 洋一 宅地建物取引士・管理業務主任者・不動産コンサルタント・不動産プロデューサー。不動産業界10年以上の専門家。物件調査、重説作成・説明などの実務経験が豊富。特に土地の売買、マンション管理に精通。大阪を中心に活動を行っている。
「一般媒介契約」での契約が適しているのはどんなケース?
媒介契約の中でも比較的自由度の高い「一般媒介契約」は、次のような場合に適しています。
- できるだけ高くより良い条件で売却したい
- 不動産会社選びのリスクを軽減したい
- 不動産売却を周りに知られたくない
一般媒介契約であれば、より良い条件を提示する購入者を選んで売却が可能です。不動産会社を1社に絞る必要がないため、不動産会社選びのリスクも軽減できます。ただし、一般媒介契約の場合、不動産会社にはレインズへの登録義務がありません。
国土交通大臣の指定を受けた不動産流通機構が運営する、コンピューターネットワークシステムのことで、不動産会社だけが利用できる物件の情報サイトのこと。レインズに登録することで、市場に出ている販売中の物件情報や、過去の成約価格などを調べることができ、ほかの不動産会社に物件の情報を広められます。
そのほかの媒介契約との違い
媒介契約には、一般媒介契約、専任媒介契約、専属専任契約の3種類があります。
特徴 | 一般媒介契約 | 専任媒介契約 | 専属専任媒介契約 |
---|---|---|---|
複数社への依頼 |
可 (明示型:依頼した会社を明らかにする 非明示型:依頼した会社を明らかにしない) |
不可 (1社の不動産会社にしか依頼できない) |
不可 (1社の不動産会社にしか依頼できない) |
自己発見取引(みずから買主を見つけること) | 可 | 可 | 不可 |
売主への状況報告業務 | 任意 |
義務あり (2週間に1度、口頭/書面どちらでも可) |
義務あり (1週間に1度、口頭/書面どちらでも可) |
指定流通機構(レインズ)への登録義務の有無 | 任意 |
義務あり (契約締結日から業者の休日を除いた7日以内) |
義務あり (契約締結日から業者の休日を除いた7日以内) |
契約期間 | 当事者間で自由に決定できる | 3ヵ月以内 | 3ヵ月以内 |
ほかの不動産会社にも依頼できる点では、専任媒介契約、専属専任媒介契約に比べ、一般媒介契約は自由度が高いと言えます。また、契約期間も定められていないため、不動産担当者との話し合いで自由に決めることができます。
一般媒介契約の契約期間は当事者間で自由に決定できますが、3ヵ月が一般的です。不動産取引において3ヵ月は短い期間。仮に契約期間を1ヵ月とした場合、極端に言えば即日成約に至らなければ決済が不可能なくらい、極めて難しい期間となります。不動産会社は3ヵ月をひとつのサイクルと決めていますので、契約期間は3ヵ月にしておいて問題ありません。
一般媒介契約書とは
多くの不動産会社では、国土交通省の標準媒介契約書約款に準じて、一般媒介契約書が作成されています。ここでは一般媒介契約書の内容について解説します。
国土交通省の「標準媒介契約約款」をもとに作成している
「標準媒介約款」とは、国土交通省が定めた標準的な媒介契約の契約条項のこと。基本事項が記載されており、不当な取引きが行われるのを防ぐ働きがあります。また、媒介契約書には「標準媒介契約約款に基づくものであるか否かの別」の記載が必須です。
ただし、宅地建物取引業者が媒介契約書を作成する場合は「標準媒介契約約款」を使用しないこともできます。
契約期間(有効期間)は3ヵ月を超えない範囲
一般媒介契約を結ぶ際、法律上の制約はありませんが、国土交通省の定める標準媒介契約約款では、「3ヵ月を超えない範囲で定めるもの」とされています。
また、契約期間を超えたときの更新については次の通りです。
【自動更新の特約あり】
契約期間が自動で更新される
【自動更新の特約なし】
不動産会社から送られてくる書類を確認後、署名・捺印して返送
詳しくは下記の記事で解説しています。
一般媒介契約書の作成に必要なもの
一般媒介契約を締結する際には次の2点が必要です。
- 身分証明書(運転免許証・パスポートなど)
- 登記済権利証もしくは登記識別情報通知書
一般媒介契約に印鑑証明書・実印は必要ありません。また次の書類は、必須ではありませんが、用意しておくと売却活動をスムーズに進められます。
- 間取図
- 固定資産税・都市計画税の税額がわかる書類
- ローンの残高がわかる書類
- 管理費・修繕積立金がわかる書類(マンションの場合のみ)
- 管理規約・使用細則(マンションの場合のみ)
一般媒介契約書の確認項目
ここでは、実際に一般媒介契約を結ぶ際に確認しておきたい項目を説明していきます。
おもな確認事項は次の通りです。
- 契約書が標準媒介約款に準じているか
- 契約形態はどうなっているか
- 不動産会社の仲介業務内容の確認
- 仲介手数料の金額と支払いのタイミング
- 売却する不動産情報の確認
- 売主の義務について
- 反社会勢力の排除が記載されているかどうか
標準媒介契約約款に準じて作られているか
法律上では、標準媒介契約約款の使用は義務付けられていません。しかし、国土交通省では標準媒介契約約款を使用するように明言しており、多くの契約書は標準媒介契約約款に準じて作成されています。
標準媒介契約約款に準じている場合、一般媒介契約書の1ページ目にその旨がきちんと記載されており、なんらかの事情で標準媒介約款に基づいていない場合でも、その旨の記載が必要です。
標準媒介契約約款に基づかない記載があった場合は、不動産会社にその理由を聞くようにしましょう。また、標準媒介約款に記載されていない内容で売主が追記したい事項がある場合は、不動産会社に伝えて記載してもらうこともできます。
契約形態
媒介契約には、一般媒介契約、専属専任媒介契約、専任媒介契約の3種類があるため、希望の媒介契約になっているか確認しましょう。
また、一般媒介契約には「明示型」と「非明示型」の2種類があります。明示型の場合、どの不動産会社に依頼しているのかを通知する必要があるため、契約している不動産会社はほかの会社を把握することが可能です。
非明示型の場合は、依頼先の不動産会社を通知する必要はありません。しかし、契約している不動産会社を信頼していないという意味合いに取られる可能性もあるため、特別な事情がない限り「明示型」を選択することをおすすめします。
不動産会社の仲介業務内容
媒介契約書では、不動産会社の業務内容を確認しておくことも大切。具体的なポイントは次の通りです。
- チラシやインターネットなどの広告宣伝をするかどうかと、媒介の種類
- レインズへ登録するかどうか
- 他社と連携があるかどうか
- 業務報告の内容、実際の広告内容、それに対する反響
- 物件調査とそれにより得た詳しい物件情報
このような事項は、口頭ではなく書面で確認しましょう。
仲介手数料の金額と支払うタイミング
仲介手数料には上限額が法律で設定されており、売買契約が成立した際に発生します。具体的には取引額の部分ごとに上限が異なります。
取引金額 | 仲介手数料の上限 |
---|---|
200万円以下の部分 | 取引額の5%+消費税 |
200万を超え400万円以下の部分 | 取引額の4%+消費税 |
400万円を超える部分 | 取引額の3%+消費税 |
例えば、売買金額が1,000万円の土地の計算式は以下のようになります。
x)200万円以下の部分
200万円×5%=10万円
y)200万を超え400万円以下の部分
200万円×4%=80,000円
z)400万円を超える部分
600万円×3%=18万円
x+y+z=36万円
よって、36万円+消費税が仲介手数料の上限額です。
また、400万円を超える取引の場合は、「売買金額×3%+60,000円」という計算式でも算出できます。
売却する不動産情報
不動産会社の売却活動は、媒介契約書に記載されている不動産情報を基に行います。
そのため、不動産情報が正確に記載されているかの確認をしておきましょう。
売主の通知義務について
「明示型」を選択している場合、依頼する不動産会社名すべてを、契約している不動産会社へ通知しなければなりません。
もし、通知していない媒介者との取引きが成立した場合、契約している不動産会社から、これまでに掛かった費用の償還を求められる可能性があります。
反社会勢力の排除が記載されているか
媒介契約書には、2011年6月以降、順次「反社会勢力排除のための標準モデル条項」が導入されています。
万が一、不動産会社と反社会勢力に関係があった場合、思わぬトラブルに巻き込まれてしまう可能性もあるため、反社会勢力の排除に関する記載があるかどうかは、必ず確認しておきましょう。
媒介契約書は、どこ(所在)、だれ(所有者)、いくら(金額)の3点をしっかり確認しておきましょう。例えば、「隣の土地と勘違いし所在が間違えていた」「実は親の所有物件であった」「金額が1桁間違えていた」などがあった場合は裁判に至る可能性もあります。しっかり確認しましょう。
一般媒介契約についてよくある質問
ほかの不動産取引で必要な書類が一般媒介契約でも必要かどうか、締結後の解約、ペナルティや違約金など、よくある質問について説明します。
一般媒介契約書に印紙税は必要?
一般媒介契約書には印紙税は不要です。印紙税は売買契約をした場合に必要となるため、一般媒介契約の場合は課税対象になりません。
一般媒介契約書を締結したあとに解約はできる?
一般媒介契約の締結後、契約期間中であっても解約できます。一般媒介契約には法的拘束力がないため、いつでも解約手続きが可能です。
詳しくは下記の記事で解説しています。
契約にペナルティや違約金は存在する?
契約に違反した場合、ペナルティを課される場合があります。
契約約款の13条には、「媒介契約締結から媒介契約終了後2年間のうちに、契約した不動産会社(媒介業者)から紹介された買主候補と、直接商談したりほかの媒介業者と話を進めたりした場合、最初に買主を紹介した媒介業者は、貢献度に応じた報酬を請求することが可能」とあります。
このように媒介契約終了後でも、結果的に直接契約や他媒介業者と取引に至った場合は、請求があれば報酬の支払いが必要です。
一般媒介契約を締結するまえに詳細を確認しておこう
一般媒介契約書は、不動産会社の業務や報酬を決める重要な書類です。
そのため、 契約を締結する際には、記載されている情報に誤りがないか、必要事項が記載されているか、売主に不利な条件はないかを確認しておくとトラブルを未然に防ぐことができます。
一般媒介契約の場合、複数の不動産会社と契約が可能ですが、不動産会社によって広告宣伝力や業務の充実度には違いがあるため、契約を結ぶ不動産会社の見極めも大切です。それぞれの不動産会社についてしっかりと調べ、自身の希望に合った会社に依頼するようにしましょう。
一般媒介契約は、媒介契約の中で最も自由度の高い契約形態です。一定の信頼のおける仲介業者ならば、あとで変更相談などもできることがあるので、気軽な気持ちで契約してもいいでしょう。
ただ、「情報を広く出したくない」など事情がある場合には最初に伝えておきましょう。不動産会社が販売宣伝をすると、一気に売り情報として広まりますので、気になる人は注意してください。
一般的媒介契約ではレインズへの登録義務はないものの、売主が希望すれば登録してもらえます。また、不動産会社側でも特段の事情がない限りはレインズに登録するのが一般的です。そのため同じ物件について何社も登録していることもあります。